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9月13日 法を学ぶことは【今日のものがたり】

 “法律書を読むこと”っていうすっごーく退屈な宿題が出た。ちょう分厚い本なんだよ。それを読めるところまで読んでこいってなんかちょっといい加減っていうか、無責任な感じがしない? 私にはそれよりもしたいことがあるのに。

 なんて文句を言っていても宿題がなくなるわけではないので、私は法律書をしぶしぶ読みながらお茶屋さんにいる。偵察のためだ。いろいろなところからいろいろな人たちが集まってくるこのお茶屋さん。今までは散歩と称して闇雲に町のなかを歩いていたけれど、ここにいればあの人──青い服の人──を見つけられるかもしれない。そのことにようやく気づいた。

 時計塔から音色が聞こえてきて私は顔をあげる。店内を見渡す。青い服の人はいない。もしかしたら法律書を一応まじめに読んでいるときに前の通りを歩いていたり、ここのお店を利用していたかもしれない。そもそも本を読むことと人を探すことを同時にできないことぐらいわかってはいたよ。

 でも、法律書を読むという苦手なことを、人を探すというやる気のあることと合わせれば、苦手なほうにも少しはやる気がいくかなって思ったんだもん。全然、いかなかったけど。そもそもこの本って本当に子供向けに書かれた法律書なのかな。

「ずいぶん分厚い本を読んでいるね」

「宿題だから仕方ないの」

 友だちに答えるみたいに言ったあとでおかしいなと思った。私は一人でここに来たのに、誰に対して話したんだろう。本を閉じて顔を横に向ける。

「こんにちは。ありがとう、僕の書いた本を読んでくれて」

 文字通り、私は飛び上がった。椅子が倒れてしまったけど、その音が聞こえないくらいの衝撃だった。聞こえなかったのは私が叫んじゃったからかも。

 ――青い服の人。

「法を学ぶことはとても大切だよ。君が今、したいことに繋がっているはずだから」

 私に話しかけてきたのは、私が探していた人だった。
 しかも、今……すごく意味深というか引っかかることを言わなかった?
 僕の書いた本……って、この人がこの法律書を書いた、人?

 青い服を来た人は私を見て、ただ笑っている――。

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