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5月14日 ゴールドデーの贈り物【今日のものがたり】

 今日は資料作りやデータの整理をしていて、久しぶりに外出せず社内で仕事をした。
 上司の北山(きたやま)さんは僕の作業を遮らないタイミングで話しかけてくださり、この人すごいなとこっそり思った一日だった。

「水戸部(みとべ)くん、キウイフルーツは好きかい?」

終業を知らせる音楽が鳴り終えたところで北山さんがそう問いかけてきた。
「好きですね」
頻繁には食べないけどたまに姉さんが買ってくるフルーツの一つだ。でも、なぜ突然キウイフルーツ?
「よかった。じゃあ、こちらを水戸部くんに」
北山さんが立ち上がり、リボンのついた袋を手に僕のところまでやってきた。

「今日も一日、お疲れさま。明日からもよろしくね」
「これは……」
「ゴールドキウイフルーツ。おいしいよ」
「あ、ありがとうございます」
袋を受け取ると思ったよりも重みがあった。
「今日は5月14日でしょう。この日はゴールデンルーキーにゴールドキウイを贈る日なんだよ」
僕が問いかける前に北山さんが理由を話してくれた。
「そんな日があるんですね」
自分がゴールデンなルーキーかは判断しかねるけど(この部署で新人は僕だけだし)、いただけるのはうれしい。
「来年は水戸部くんが新人さんに手渡すことになるかもしれないね」
「……できるように仕事頑張ります」
まだ手探りなことが多いけど、僕に合っているのかなとは思えるから、うん、がんばろう。
「そう言ってくれると私もうれしいよ」

   *   *   *

「ただいまー」

「あ、お兄ちゃん帰ってきた。おかえりー」
 部屋の向こうから妹の深景(みかげ)のどこか弾んだような声が聞こえてきた。いいことでもあったか?
 リビングに入るとふんわり甘い匂いが漂ってきた。
「おかえり、景心(けいしん)」
「ただいま」
 姉さんと深景はエプロンをつけていた。夜ご飯を作ってくれていたのかなと思ったけど……。

「はい、お兄ちゃんにプレゼントです!」
「え、え? なに、なに。今日なんか祝いの日だったっけ?」
 深景が籠を抱えながら笑顔で僕に差し出してくる。けれど肝心の籠の中身は可愛らしいタオルで隠れて見えない。

「じゃじゃーん!」

 深景がタオルをめくると出てきたのは……

「ゴールドキウイ……」

「今日は5月14日でゴールデンルーキーにゴールドキウイを贈る日なんだって。だから、あたしとお姉ちゃんからお兄ちゃんにゴールドキウイのプレゼント!」

「あ、ありがとう……」

まさか、姉さんたちも今日がそういう日だと知ってゴールドキウイを買ってくれてたなんて……。
「どうしたの景心。なんか、様子がおかしいけど」
姉さんは鋭かった。うれしい気持ちはあるのだけど、ついさっき同じようなやり取りをした僕は、うまく喜びを表現できなかった。ここは、正直に話そう。

「実は会社でも同じようにゴールドキウイをもらったんだよね」

「「ええーーー!!」」

姉さんと深景の声がユニゾンした。

「景心の会社、なかなか面白いところね」
「まぁ、僕の部署は新人が僕一人だからね、用意しやすかったのかも」
「でもでも、キウイはおいしいからたくさんあっても良いよね」
 深景はニコニコしながらキウイをつついている。
「それで、この甘い匂いは……」
「ご飯食べたあと、キウイを使ってクレープとかパフェとか作りたいねって深景と話してたのよ」
「クレープ、パフェ……」
「そう。だから今のうちにクレープ生地とかトッピングできるものを用意してたの」
 なるほど。深景がウキウキしているのはそういうことか。
「あ、ちゃんと夜ご飯も作ってるからね。ゴールドに見えなくもない親子丼です!」

 姉さんと深景がとても楽しそうにしている姿を見て、ゴールドキウイを見て、北山さんを思い出して、僕は明日からもやってやるぞという気持ちになった。
 まずは、深景が喜んでくれそうなパフェとクレープを作るかな。

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