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2月20日 旅券とパンを持って【今日のものがたり】

「いらっしゃいませ」
 お店を開けて、一番最初に来てくれたお客さんはかわいらしい女の子だった。
「クロワッサンとフレンチトーストをください!」
「おひとつずつでよろしいですか?」
「はい! おねがいします」
 わたしのパパとママが作っているパンはとってもおいしい。今日は、パパがお城にパンをお届けに行っていて、お店にはママひとり。それじゃあ大変なので、わたしはママのお手伝いをしている。
 お店の中はできたてパンの香りでとっても幸せな気分になれる。並べてあるパンをつまみ食いしていまいたいぐらい。
「こんなに朝早くからありがとうね」
 ママが女の子にそう話していてわたしは時計を見る。確かに、わたしも昨日はこの時間、まだ寝ていたなぁ。
「あたし、船に乗れることになったの!」
「えっ?! 船に?」
「そうなの! 見て見てこれ! はじめて旅券をもらえたの」
 女の子がわたしとママに見せてくれたのは、船に乗るのに必要な旅券と呼ばれる運航証だった。
「すごい、すごい! わたし初めて見たよー」
 子どもがこの旅券をもらうには勉強をして、テスト? みたいなのを受けて、それに合格しないといけないのだ。そのテストは魔法能力テストより難しいって噂があって、わたしはまだ一度も受けたことがない。
「もしかして、これから船に乗るの?」
「そうだよ。そのときに、あたしの好きなパンを食べたいなって思ってここへ来たの」
 わたしとママは顔を見合わせる。そして、すぐに笑顔になる。
「ありがとう! とっても嬉しい」
 わたしはママより先にそう言っちゃった。わたしが作ったわけじゃないんだけど、本当に嬉しかったから。
 実は、パパとママの作るパンはお城に住んでいるとっても偉い人たちと契約していて、お城に届けているんだけど、いまいち実感がなくて。でも、目の前で、こんなかわいらしい女の子にも好きだって言ってもらえるとすっごく実感がわいてくる。幸せだー。
「すてきな船旅になることを願っているわ」
「ありがとう! 行ってきます!」
 あーわたしも、パパとママの作ったパンとともに船に乗って旅をしたくなっちゃった。

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