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5月27日 背骨とふたりの放課後と【今日のものがたり】

 図書室に本を返しに行ったらクラスメイトの飯森楓(いいもり かえで)がカウンター担当だった。

「森島(もりしま)って図書室の本借りたりするんだ」
「たまにだけどね。てか、飯森くんが図書委員だったこと忘れてた」
「なんだと~」
「でも、飯森くんだって私が何委員かすぐ言えないでしょ」
「……」
「ほら~」
「いやいや、まだ2秒ぐらいしかたってないでしょ」

 そこまで話して、誰かいたらうるさかったかもしれない、と思って振り返った。

「今は誰もいないよ」

 飯森くんが私の行動の意味を察してくれたようだ。

「よかった。……あ、でも、図書委員的にはもう少し利用者がいたほうがいいのか」
「ま、学校の近くに図書館あるしねー」

 飯森くんは背もたれに身を預けて伸びをする。思った以上に反り返っているから、飯森くんは身体が柔らかいのかもしれない。

「ん? それって背骨?」
「そ、そうだけど……っ」

 伸びから戻った飯森くんがあきらかにあわてた。私が見つけたのはカウンター席にあった白い紙。そこに描かれていたのが背骨だったのだ。

「飯森くんが描いたの?」
「そ、そうだけど……っ」

 挙動不審とはこのこと? でも……

「見てすぐに“背骨”だってわかったし、めちゃくちゃ上手だと思うよ。そんな隠すことない」
「……さんきゅ」

 飯森くんは背骨が描かれた紙をカウンターの上に置きなおす。改めて見てもうまいと思う。

「あんまりガン見するなよ」
「でもでも、え、飯森くんって絵を描くのが好きなの?」
「……好きだよ」
「そうなんだー! それで、背骨を描いていたのは理由があるの?」

 飯森くんがそばにあった本を手にとって表紙を私に見せてくる。

「『記念日事典』?」
「そう。毎日何かしらの記念日があるって知って、描くならそれにリンクしているのがいいかなって思ってさ」

 毎日何か記念日だったことも、そういう本が出ていることも知らなかった。でも、それじゃあ、つまり……

「今日って背骨の日なの?」
「そう。『背骨が腰椎5個・胸椎12個・頸椎7個から構成されている』から。数字を並べると5127、1をスラッシュにすれば……」
「おお~っ! 5/27だ! なるほどね~。飯森くん、詳しいんだねぇ」
「いや、俺も本で調べて初めて知ったから」

 飯森くんの秘密(?)を知るところとなったので、これは私も何か話したほうがフェアなような気がしてきた。特別隠していることはないんだけど……。

「そうだ。飯森くんはカラーは何を使っているの? 絵の具? それともデジタル?」
「……ああー俺、カラーって苦手なんだよね。だいたいモノクロ」
「……色をつけたいって思ったことは?」
「もちろん、あるよ。モノクロで完成っていうのもあるけど、色もつけたい」
「……あの、もし、もし、飯森くんが嫌じゃなかったらなんだけど、私が色つけてもいい?」
「えっ!?」
「あーごめん。いきなりでびっくりするよね。実は私、色塗るのが好きなんだ。大人のぬりえっていう本あるでしょ。家にいっぱいある」
「まじか……」
「うん」

 そう、これが私の秘密(?)。小学生の頃からぬり絵が大好きなんだよね。

「……わかった。明日、色つけてほしい絵を持ってくる」
「本当? 楽しみにしてる」

 放課後の図書室。まさかの出来事になんかちょっとドキドキしている。飯森くんが図書委員で良かったなって都合のいいこと思ってしまったり。

「いやあ……今日、本を返しにきたのが森島で良かったよ」

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