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3月24日 マネキン思う【今日のものがたり】

 僕はビルの中にある店舗の一つで働いている。
 同じフロアにはいくつかお店があって、僕の職場へは洋服屋さんの前を通っていくことになる。
 そのときいつも気になるのが、目立つところにあるマネキンだ。夜中になるとこのマネキンたちが動き出して……といったことを思わず考えてしまうのだけど、そりゃ、そんなことが現実に起こるなんて思っていないよ? でも、なんか、考えちゃうんだよね。

 夜中になるとマネキンが動くって考えている人、私以外にいるかなぁ。こんなこと職場の同僚には聞けないけど、私はどうしてもそういう想像をしちゃうんだよね。
 マネキンたちは夜な夜な動き出し、身体をポキポキならして、「は~一日止まったままだと身体がなまりますねぇ」「まったくです」なんて話してたりして、でも朝になったらちゃんとみんな元の位置に戻ってマネキンとしてのお仕事をしているんだ。

 俺はマネキンが動くとはまったく思っていないが、閉店後に薄暗くなったなかでここを通り過ぎるとき、もう誰もいないはずなのに人影が……って、ちょっとドキッとするときはある。案外恐がりなんだねって職場の同僚には言われたくないからこのことは誰にも話していないけど、怖がってるやつは俺だけではないと睨んでいる。

 マネキンはあくまでもマネキンでそこにいるだけだから、明るかろうが暗かろうがドキッとすることはない。それよりもオレはこのマネキンたちがいくらぐらいするのかってほうが気になる。あとで調べて……いや、まだ始業時間じゃないから今調べてみよう。マネキン 値段……で検索、と。
 へぇ~このぐらいなのかぁ。にしても、いろんな姿勢のマネキンがあるんだな……って、そりゃあそうか。

 この座っている姿勢のマネキンが着ている服、いつもわたしの好みにドストライクなんだよね。ひそかな夢が、「このマネキンが着ているものすべて下さい」って値札を見ずに言うことなんだけど、まだちょっと勇気が出ないんだよね。でも、今回は本当に素敵だから、帽子から靴まで本気で揃えてみようかな。ただ、そのままのコーディネートで出勤したらこのお店のマネキンと一緒だって同僚にバレちゃうよね……。

 ──だからずっとここにいても飽きることがないのだ。

 マネキンは通り過ぎる人間たちを眺めながらこっそりそう思っている。

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