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11月26日 いいチームのパン屋さん【今日のものがたり】

「ありがとうございました!」

 私はフランスパンを買ってお店を出る。今日のお昼はワカメごはんだったから夜はパンを食べる。明日は休日だから朝ごはんもパンになるだろう。
 私は特別パンが大好きというわけではない。でも、ある日のお昼休みにパン屋さんの話をしている人たちがいて、そのときの表情が本当においしそうに見えて気になったのだ。そのとき食べていたお昼ごはんがおいしかっただけなのかもしれないけど、確かめてみるのもいいかなと思ったのだ。

 職場から自転車で15分くらいのところに話にあがっていたパン屋さん“戸村ベーカリー”はあった。ということは家から自転車で30分近くかかる計算だ。
 お店に入ると、できたてパンの香ばしいかおりが私を包んだ。そのあとすぐ、いらっしゃいませと男性の声がした。つづけて、クロワッサンができあがりましたと女性が奥からトレーを持って出てきた。

 それだけで私は確信した。
 この2人は夫婦で、いいチームなのだと。
 
 話しもしていないし、2人の会話を長く聞いていたわけでもないのに、なんでそんなふうに感じたのか。正直、自分でもよくわからない。でも、この直感のようなものが私はいつも当たるのだ。

 仕事はチームプレーだと言われる。1人で仕事をする人たちもいるけれど、グループで何かひとつのことを成し遂げないといけないとき、やはり縦の繋がりも横の繋がりも大事になる。それだけに私の直感は厄介で、なんとなくこのチームは難しそうだと感じるとその通り、人間関係がぎくしゃくしていっていきづまる。

 簡単に辞めるんだね、と言われながら辞めた仕事もあった。一度も簡単な気持ちで辞めたことなんてなかったけど、残る側から見れば私は逃げているように見えたのかもしれない。そう感じてからは短期の仕事に絞って勤めることにした。

 そう思うと、今の職場は特殊なのかもしれない。お昼休みに先輩方が話していたパン屋さんに来てみたり、そこのフランスパンがおいしくて、木曜日以外の月曜から金曜日に買うことが日課になるなんて。

 自転車の前かごにフランスパンの入ったバッグを入れる。このバゲットをどうやって食べようか。それを考えながら家までの30分が私は好きなのかもしれない。

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