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7月13日 正確な時刻は誰の……【今日のものがたり】

 正しく時を伝える音が今日も町に降り注いでいる。
 
 ふと、窓を開けて時計塔を眺めていた少女を思い出す。

「彼はあそこから出られないんだよ」

 きまぐれだった。話したら、少女はどんな反応を示すか。果たして、少女は私を追いかけてきたのだが、いかんせん尾行が下手すぎた。その後も、私が青い服を着ていると目星をつけて探してはいるようだが……少女はおそらく探偵には向かない。

 ただひとつ、あの日から時計塔を気にかけているという点は興味深い。
 私の言葉を嘘だと思わず、真実ととらえて私を見つけだそうとしているのは悪いことではない。現に私はいつでも見つけられていいよう、この町に居座っているのだが。

 こちらから出向かないのは、私から会いに行ってしまっては楽しくないからだ。楽しくないことはもうしないと決めている。
 そうだ、私は自由を手に入れたのだ。自由とは楽しみのことだ。あそこから出た私はどこまでも自由なのだ。
 
 正確な時を刻んで何になる?

 私は私の時間をいくだけだ。
 時計塔のことを知りたいのなら、私を見つけるがいい。
 かつて、時計塔の番人と呼ばれていた私を──。
 

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