5月22日 たまご料理は初めての思い出【今日のものがたり】
来てほしい、見つかってほしい、そう強く願ったときに限ってなかなか叶ってくれず、もどかしくなる。
ドリスコルさんはアーリンさんを探してこの街までやってきた。でも、アーリンさんがどこに住んでいるのかは私も詳しくは知らない。だから、もう一度パンを買いに来てくれたらと思っているのだけど。
ドリスコルさんと出会ってから10日以上たつ。けれど、アーリンさんには会えていない。
「あの、大丈夫、ですか……?」
「……すまない。ただ、居候しているだけになってしまっていて」
「そんなことないです! 命の恩人を探すことはとても大事なことですから」
ドリスコルさんにとってアーリンさんはそういう存在なのだと教えてもらった。
「アーリン様と再び会えたら、あなたにお礼を……いや、ご家族みなさんに……」
「いやいや、そんな! ドリスコルさんが元気になってくれたらそれだけで嬉しいですから」
吸血鬼のドリスコルさんは生きていくために『血』が必要だという。でも、ドリスコルさんはその主食である血がすごく苦手で、アーリンさんが作ったという魔道具が下手したら血よりも栄養があるかも知れなくて、それを求めている。
そんなドリスコルさんにどうかなって不安もあったけど、わたしは作ってきたものを思いきって差し出した。
「これは……」
「たまご焼きというものです。味付けはいろいろあるんですが、これはほんのり甘いたまご焼きです」
「たまご焼き……聞いたことはある……」
「ふんわりやわらかいので食べやすいとは思います」
家族以外の誰かに料理を作るなんて初めてのことだったからわたしは内心ドキドキしていた。しかも食べてもらおうとしているのは吸血鬼さんだ。
「少しでも栄養のあるものを口にしたほうが良いと思って」
「……あなたが、作ったのか」
「はい。作りました」
ドリスコルさんはゆっくり起きあがってたまご焼きを見つめている。
なんだか何かの試験を受けているみたいに緊張する。
「……いただきます……」
ドリスコルさんは丁寧にそういって、たまご焼きをひとかけら、口に運んでくれた。ほのかに香る、たまご焼きのにおい。うん、においはおいしい。自分で作ったものだけど。
「……おいしいな……」
「やったぁ! うれしい、ありがとうございます」
すごくホッとした。ドリスコルさんが食べてくれたことにまずホッとして、お口に合ったことにもホッとして……はぁ~本当に良かった。
「……お礼を言うのはこちらだ。寝るところだけでなくこうやって食事も用意してもらって……」
「大丈夫です! アーリンさんに会いたいのはわたしも一緒ですから。来てくれるのを願って待ちましょう! もしかしたら魔道具を作っていて忙しいのかもしれませんし」
「……そうだな……」
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