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梟の文具店


 ナマケモノは基本的にマジメなので、とりあえずお手紙を書く準備をしようと出掛けました。
 小さな文房具屋さんなのだけど、学校なんかに必要そうな物はなんでも揃います。水筒なんかもあります。
 そういうお店があるよ、とお客様から聞いていたのを思い出したのでそこへ向かいました。

 ちりんカランとドアを開けると、その、教えてくれたお客様の梟さんが居ました。
 「おやぁ、いらっしゃいませ。今日は何をお探しですか?」

「梟さん?!
僕、梟さんは和菓子屋さんかと思ってました!」
 梟さんは、自分で炊いたあんこを使った春のお菓子や、秋のお菓子、そして冬には黒豆をふっくら甘く煮たりしていました。作ったから少し分けるねとオーナーに渡して行くのをナマケモノは見ていたのでそう思い込んでいました。

 「私のお店じゃないですがね、私が手伝いをしますから、半分くらいは私のお店かもしれませんねぇ。そしてこのお店をお休みする時は小豆を炊いたり、お料理をするのですよ」梟さんはちょっと得意げに、私器用なんです、と胸を張りました。

 「オーナーにお手紙を書きたくて。どんな文房具が良いですか?」

おや、という顔をしながらも、梟さんは、ナマケモノがオーナーが読んで喜ぶ手紙にしたい、という気持ちを汲み取って、会話を続けてくれました。
 
今、どんな気分ですかね。

気分?気分で文房具は変わりますか?

そりゃぁ、書く人の気分で変わりますよ。ちょっとしんみりな内容をお知らせするなら月夜の便箋とか。たくさん書きたい事があるなら、白い便箋がいいけれど、途中で気分や話題が変わるならペンの色を変えるとか。
 
 どんなふうにも選べる、色々な便箋や封筒、色々な筆記用具を並べながら、梟さんは不思議そうに尋ねます。
 「周りの方々の好みに添うのも大切ですが…自分の好みは?自分自身へは、質問をしていないのですか?」
ナマケモノはドキッとした。
「あれ、僕のこと、僕自身に聞いたことなかったかも。でも、どうやって聞いたらいいんだろう…。」
ドキドキすると、ジワっと涙が出てくるようになっていたナマケモノは、慌てて眼をギュッと閉じました。
 
「そうですか。そうですか。これからなんですね、ナマケモノさんは。これから知っていくんですね。毎日が良い旅になると思いますよ。なんなら日記帳代わりに、オシャレなトラベラーズノートもありますよ。」
 あと出先で書きたくなった時のための鞄もありますからね、出掛けるならハンカチも入れましょうか、と見ないフリをしてくれました。
 
 梟さんは人当たりの良い方です、他人に嘘は言いません、でもこれは言うことじゃないな、とか、言うべきかな、とか、相手を見てちょっと言葉を、話題を選びます。
 それは「知りたい人がきちんと調べてそれを知ればいいこと」を経験しているからです。
同じような経験でも、みんなが同じように思わないことを、知っているからです。
 梟さんは、大切な伴侶を、大病で亡くしてしまうかもしれないという時に、今まで誰にも見せたことのない涙と弱音を、一度だけ、オーナーと分かち合いました…。その事は、その後大病を乗り切った伴侶と改めて向かい合ってご飯を食べている今でさえ「心に閉じ込めている言わない真実」なのです。

 「私は意外と友人は少数精鋭なのですよ。だから同じ趣味とか同じ話題に盛り上がれるニライカナイのオーナーはかなり、スペシャル[特別]な友人です」  
 そう言って「とりあえず文具セット」をナマケモノに渡して、ウィンクしました。


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