10-6 腸疾患治療薬
過敏性腸症候群治療薬(IBS)
過敏性腸症候群(IBS)とは、検査では異常は見られない(原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がない)にも関わらず、大腸・小腸由来の消化器症状(下痢や便秘、腹痛など)が続く疾患である。
便の正常により、便秘型(IBS-C)、下痢型(IBS-D)、混合型(IBS-M)、分類不能型(IBS-U)に分類される。
精神的なストレスや自律神経の乱れによって、症状が現れると考えられている。
IBS 治療薬
IBS の治療のためには、規則正しい生活とストレスを溜めないような生活を心がけることが重要であり、軽症の場合は、生活改善のみで経過をフォローする場合もある。
生活改善で症状が軽減しない場合や症状が強い場合には、症状を緩和するための薬が必要になる。
初期治療薬
消化器症状に対する薬
高分子重合体
ポリカルボフィルカルシウム(ポリフル錠/細粒、コロネル錠/細粒)
便の水分バランスを調節する。便秘型にも下痢型にも有効。
消化管機能調節薬
トリメブチン
腸管のオピオイド受容体に作用して、消化管機能を調節する。便秘型にも下痢型にも有効。
初期治療が無効な場合、症状に応じた治療薬が用いられる。
○ 下痢型
止痢薬
○ 便秘型
下剤
5-HT4 受容体作動薬
○ 腹痛
抗コリン薬
○ 精神症状
抗不安薬
SSRI など
炎症性腸疾患(IBD)
炎症性腸疾患とは、腸に炎症を起こす疾患の総称であり、細菌や薬剤など原因がはっきりとした特異的炎症性腸疾患と、原因不明の非特異的炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)に分けられる。
クローン病(CD)と潰瘍性大腸炎(UD)
どちらも若年者に好発する原因不明の炎症性腸疾患であり、厚労省指定の難病である。
好発部位の違いとして、クローン病は、口から肛門までに起こる可能性があり、非連続例に起こる(ただし、特に回盲部に起こりやすい)。潰瘍性大腸炎(UD)は、大腸に、連続性に起こる。
クローン病(CD)
クローン病の治療は、栄養療法と薬物療法が中心となる。
栄養療法では、通常の食事をいったんやめて、経腸栄養剤を口から摂取することで、腸管に負担がかからないようにするものである。
治療法は、目的が、寛解導入療法(絵印象を抑えて症状を消失・軽快させる)か、寛解維持療法(炎症が再燃しないように、現状を維持する治療)によって、治療法が異なる。
治療薬は、抗炎症作用を持つ、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤や、ステロイド製剤での治療が中心となる。
潰瘍性大腸炎(UD)
潰瘍性大腸炎に対しても、クローン病と同様に、寛解導入療法と寛解維持療法を行う。重症度や時期、病変部位によって治療法が異なる。
クローン病とは異なり、栄養療法は行わない。
薬物治療では、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤、ステロイド、免疫抑制薬、分子標的治療薬(抗 TNF-α抗体など)が用いられる。薬物治療で改善しない場合、顆粒球・単球吸着療法や白血球除去療法などが行われ、重症例など、外科的治療の適応となる場合もある。
5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤
5-ASA 製剤には、サラゾスルファピリジンと、メサラジンがある。
・サラゾスルファピリジン(SASP)
サラゾピリン (R) 錠/坐剤
・メサラジン(5-ASA)
ペンタサ (R) 錠/顆粒/注腸製剤/坐剤
アサコール (R) 錠
リアルダ (R) 錠
○ 5-ASA と SASP の違い
メサラジンをそのまま経口投与すると、大半が小腸で吸収され、全身循環に回るため、病変部の大腸に高濃度の薬剤を届けることができない。そのため、製剤学的工夫が行われている。
・サラゾスルファピリジン:(適応)潰瘍性大腸炎
(工夫)5-ASA のプロドラッグ
腸内細菌の働きで、5-ASA とスルファピリジンに分解される。
・・・ゆっくりと、5-ASA に変換される
・ペンタサ:(適応)潰瘍性大腸炎、クローン病
(工夫)徐放錠
時間依存性徐放錠であり、小腸から 5-ASA が放出される
・アサコール:(適応)潰瘍性大腸炎
(工夫)徐放錠
pH 依存性徐放錠であり、回腸末端付近から 5-ASA の放出が始まる。
・リアルダ:(適応)潰瘍性大腸炎
(工夫)徐放錠
外側は、pH 依存性徐放錠であり、内側は基剤に 5-ASA が溶け込んでいるので、よりゆっくり放出される。
・・・大腸に到達すると、製剤から、成分である 5-ASA が放出される
直腸の病変が強い場合は、坐剤や注腸製剤が使われる。
ステロイド
副腎皮質ステロイド薬は、抗炎症作用を持つ。腸での薬効を高め、全身性の副作用を出るだけ減らすために、腸だけに薬を届けるような、注腸製剤が用いられる。
免疫抑制薬
アザチオプリン
メルカプトプリン
シクロスポリン
タクロリムス
分子標的治療薬
抗 TNF-α 製剤
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