塔に住まう者
雨が最後に降ったのは、いつのことだっただろう。
塔の下、地上を歩きまわる小さな人々を眺めながらそんなことを考えていた。
小さな人々はそれぞれ、水溜まりを避ける者とそのまま直進していく者に綺麗に分かれて歩いている。
避ける者の行先はどうやら、北にある塔のようだ。
北の塔はネオミーと呼ばれる者達が管理していて、ネオミーたちはその管理している塔の下に広がる都市に住んでいる。
なので今、北に向かっている者達はこれから検査を受けに行く者か、合格してこれからその都市に住む権利を得た者だろう。
かわって水溜まりを直進する者達の行先は、西の農地と東の研究施設のふたつに分かれていた。
西の農地に向かう者の方が、どうやら多いようである。
その者達は休むことなく来る日も来る日も、植物や家畜の世話をし続ける。
雨の日はあまり世話をしなくてよいはずなのだが、その者達は世話をするのが好きらしく夕方になっても来た道を戻ることはなかった。
そんな働くのが好きな農地の者は、サトラと呼ばれていた。
東の研究所に向かう者は数が少ない。
数は少ないがその者達は、どんな薬物もウイルスも効かない特殊な体をもっておりその体質ゆえに研究所で働く者となった。
研究所で働く者は、その体質に関わらず全員がルーノと呼ばれていた。
ルーノの中にはネオミーもいたが、ネオミーはあまり雨が好きではないようでギミルの作った地下道を使い研究所に向かっているようだ。
ギミルは南に住んでいる背の低い一族で、モノを作るのが好きな種族であった。
もとはといえば北の塔も東の研究所も、農場にある建物も全てギミルが作ったものだった。
この世にあふれている人工物は中央の星読みの塔以外、全てギミルが作ったのだ。
星読みの塔は前時代の神々が作った遺物で、塔は雲の上まで続いておりその全貌は地を這う人々は知らない。
そして、訪れたこともない。
というよりも、星読みの塔には入口がないので入ることすら人々には出来ないのだった。
それでもその塔から年に幾度か星のきらめきが地上に落とされるのを人々は知っているので、人々の間で塔には古の神様が住んでいるとまことしやかに語られている。
神様なんかじゃないんだけどなあ
そんな言葉をはいて、頬杖をつき雨の降り続けている下の様子を眺める。
塔の上、この領地に最後に雨が降ったのはいつのことだったろうか。
雨が降れば海になる。
その海を泳ぐのが好きなのだけれど、それは何年もしていないことだった。
とはいえ海を泳ぐ行為は、はしたないこととされ禁止されているのだけれど。
短い溜息とともに雨のように細い星屑を塔の下に散らす。
きっとギミルがその星屑でまた何か作り出すだろう。
もしかしたらルーノが星屑の成分を研究するかもしれない。
どちらにせよ、それはこちらには関係のないことだ。
塔の下ではまだ雨が降っていて、小さな人々がせわしなく動き回っていた。
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