「超一流」ゆえの贅沢な不満 エッシェンバッハ/N響のマーラー第5番
東京芸術劇場のN響定期に行くのは初めて。
なんか新鮮。
会場は満席! エッシェンバッハだから?
まあ、ウィーン・フィルにも定期的に客演してる超一流だもんなぁ。
「超一流」の捉え方って人それぞれですけど、好みを度外視して現在の大巨匠たちを挙げるなら、メータ、ムーティ、バレンボイム、シャイー、ラトル。
エッシェンバッハはそのラインナップ上にいるんじゃないですかね。
ブロムシュテットはややローカル。小澤さんもご病気で第一線では振れてないですよね。
宇野功芳さんはさっきの顔触れ(ラトルの代わりにアバド)を「最近の花形指揮者はあまり聴きたい気持ちにならない」と書いてたことがありました。
たしかに昔の自分ならエッシェンバッハは食わず嫌いしてたでしょうが、今回は彼と相性良さそうなマーラーだし(しかも大好きな5番)、3200円の最安席が運良く手に入ったので聴きに行こうと思いました!
行って大正解!
感動したからではありません!笑
その逆!笑
いろんな気付きがあったからです。
まず、演奏の完成度は高かったです。
日本のオケとは思えないくらい。
超一流の指揮者は指揮台に立ってるだけで鳴る音が違うというのがよくわかりました。
N響がいい意味で「よそ行き」仕様でした笑
芸劇の3階席後方からステージを見下ろしてると、
ここはベルリン・フィルハーモニーか!?
って思いましたね笑
あ、一応コンサートホールのことです。
ベルリン・フィルの本拠地のホールです。
NHKのBSやYouTubeで海外のクラシックコンサートを視聴しますが、遠くから見てると(聴いてると)N響とは思えない!
ロンドン響かフィルハーモニア管くらいの実力はあるんじゃね?
と思いました(イギリスのオケにしたのは、フランスやイタリアやロシアのカラーではない感じだったからです)
ルイージとのチャイコフスキー5番(サントリーホール)ではおっかなびっくりだったホルンも威風堂々。
金管が安定してるとこうも聴きやすいのか!
楽器でよかったのはtp、hr、vc、hp(早川りさこさん)ですかね。
第2楽章かな? チェロの独奏によるわりと長いパッセージがあって、初めて聴いたような不思議な感覚でした。
聴衆の集中力が高く、第5楽章まで大きなミスなく来てる感じでしたが、第5楽章の7割くらい来たところで突然オケが止まって変な単音が1秒くらい続いたのは、指揮者が振り間違えたのでしょうか??
明らかに音楽の流れが止まってましたね。
そのあとは完成度がやや下がってしまったままフィナーレを迎えた印象でした。
私のタイプの演奏ではなかったですが、完成度が高かったのでさぞかしN響定期会員から万雷の拍手が湧き起こると思いきや、そうでもなかったですね笑
カーテンコール中にバタバタ退席する人多し。
遠方からエッシェンバッハ目当てに来た方が帰りの電車の時間に追われてだったんですかね。
今日の演奏は外来オケかと思うほど完成度が高かったと先程書きました。
でも、不満があるのです。
それは、スリルに乏しいってことでしょうか。
私はクラシックに限らず、演劇とか、歌舞伎、能、落語、バレエ、いろんなライブパフォーマンスが好きなのですが、自分がどんな芸術を求めているのかを今日改めて知りました。
それは「未知のもの」なんです。
未知の感覚、というか。
見たことのない景色。
嗅いだことのない匂い。
味わったことのない味わい。
触れたことのない手触り。
今まで感じたことのない心の動き。
そういうものを体験したくて、生の芸術鑑賞に通ってるのだ、と。
今日のコンサートは「日本のオケでなかなかここまでハイレベルで完璧に近い演奏は聴けない」と思いました。
でも、それと感動は別です。
私はテクニックの完成度より、人間味、人間らしさを欲しがってるんだと気付きました。
先だってのショパン国際ピアノコンクールにしても、第1位のブルース・シャオユー・リウさんよりも第2位の反田恭平さんが好みでした。
ブルースさんの演奏はエレガント!
貴公子然としていて、クラスの学級委員でイケメンで勉強できてスポーツ万能!
王子様みたいな演奏です。
対して、反田さんの演奏は全然イケメンじゃないんだけど、すごく話術が面白い人、コミュニケーションスキルが抜群に高い人って感じでした。
反田さんはテンポの微妙なゆらぎがあって、CD聴くみたいに聴こえないんです。
今まさにショパンの楽譜から音符が飛び出してくるような新鮮な感動がありました。
最近配信で聴いたジャン・ロンドーのゴルトベルク変奏曲の新譜も、絶妙なテンポの揺らしによって聴き慣れたこの名曲を興奮して聴けました!
ブルースさんは洗練されすぎて、そつがない。
それは言い方を換えれば、予測を裏切らないということです。
私はそれを「予定調和」に感じてつまらなく感じてしまう。
私の好みの問題です。
最近は高いコンサートに行かなくなりました。
超一流オケが来て、高いお金払って聴いても「よくて当たり前」ですからね。
1月にチョン・ミョンフンが来日して東京フィルと私の大好きなマーラー3番をやる予定だったときも(結局来日中止になりましたが)、やはり「よくて当たり前」なのが物足りなく感じて、矢崎彦太郎/新交響楽団と小椋佳のファイナルツアーを買いました笑
どちらも初めて生で聴いたのでよかったです。
特に新響!
矢崎彦太郎さんはシティフィルの首席客演指揮者だったときから気になっていて、やっと聴けました!
アマオケ最高峰の新響も初めて!
前半の「スコットランド」がものすごくデモーニッシュというか、フルトヴェングラー並みの濃厚な表現でしたね。
後半の「アルルの女」は人数が増えて全体のレベルが下がった印象でした。
前半の選抜メンバー?によるフルヴェン的な「スコットランド」をたかだか2000円で聴けたのは望外の喜びだし、こういうときこそコンサート通いしててよかった!と思います。
矢崎彦太郎、初めて。→ワクワク
新交響楽団、初めて。→ドキドキ
「スコットランド」、大好き。→安心感
こういうコンサートが好きですね。
わかりきったものを追体験したり再確認しに行くのはつまらないです。
クラシック音楽は再現芸術だから、何の曲を聴くかわかってて行くわけです。
人によっては「予習」好きな人もいますね。
事前にいろんな指揮者の演奏聴き比べたりとか。
私はあれも嫌いなんです。新鮮な気持ちで曲を聴きたいので。
今日のエッシェンバッハ/N響のマーラーの完成度は高かった!
それは会場にいた人なら認めるでしょう。
大絶賛する人がいてもおかしくない。
ミスの多い生演奏が大嫌いな人には高評価だったのでは。
でもね、私はミス大好きなんです笑 生演奏っぽいじゃないですか。
青木十良さんが85歳で武蔵野市民文化会館でバッハの無伴奏チェロ組曲第6番を弾いたときなんかミスだらけでしたよ笑
でも不思議なもんですね。すごく味わいがありました。
島田正吾の最晩年の「白野弁十郎」(「シラノ・ド・ベルジュラック」を翻案した一人芝居)見てるときもそんな感じでした。
ベテランの味、ってやつですかね笑
ただ下手なだけなのはダメですよ!(FMで聴いたゲルハルト・オピッツの「展覧会の絵」の来日公演はひどかった笑)
今日のマーラー聴いてて思ったのは、「これだったら家でカラヤンのCD聴いてればいいじゃん」でしたね。
別にN響じゃなくても、ネルソンスやネゼ=セガンみたいな売れっ子が手兵とこんな演奏しても同じ感想だったと思います。
3000円で「超一流の味」を知れたのはコスパがよくてありがたかった。
エッシェンバッハが世界的に一流の指揮者なんだなという実感もあった。
ヨーロッパツアーで披露しても恥ずかしくない精度だったと思います。
ただ、私がお金払ってまで味わいたい芸術はやはり何らかの破綻や乱調、驚きがあってほしい。
「予定調和」では心は動かないんです。
最後に、岡本太郎の言葉を引用します(宇野さんも引用してましたね)
今日の芸術は、うまくあってはならない。
きれいであってはならない。
ここちよくあってはならない。
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