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空間AI白書 - 導入編

AIの波が建築業界にも徐々に広がっているようなのですが、それに伴って「情報のキャッチアップを始めているけど、何かやろうにもどこから手をつけていいかわからなくて困ってます。」という声を聞くようになりました。

ということで、これからAIについて学び始める建築業界の人向けに、AIの取っ掛かりで知っておきたい概要についてまとめようと思います。


AIに関する基礎理解


まずはAIそのものについて理解しましょう。ついつい建築の実例を知りたくてなって、AIの理解は飛ばしてツールを触ったり、業務活用を考え始める人が多いのですが、基礎理解が抜けているとスキルの身につけ方を間違えます。詳細な技術を学ぶというよりも、AIの何がすごくてこれほど話題になってるかの根本を理解することが特に大事です。3つに分けて説明します。

ジェネラルなAIである

盛り上がりを見せている昨今のAIは、GAI「general artificial intelligence」とよばれています。日本語だと汎用性人工知能になりますがこの「汎用」であることがポイントです。

これまでのAIは、例えば囲碁で使われるAlphaGoのように、特定の領域に限定して使われるものがほとんどでした。対してGAIは、特定の領域に閉じずに使用することが可能なAIです。みなさんも良く知っているChatGPTはあらゆる問いに答えてくれますし、画像生成AIでは建築パースを作成するのと全く同じAIで、イラストやロゴを作ったりすることもできます。今はまだ建築に特化したAIでないのに、既に高い実用性を持っており、今後建築向けにチューニングがなされるできることはより増えてくると考えられます。

自然言語で操れる

2つ目の特徴は簡単さにあります。今のAIはほとんどの機能が自然言語で操作するができ、使用するだけであれば機械言語を必要としていません。画像生成AIは英語ベースのものがほとんどですが、ChatGPTは日本語でOKです。翻訳サービスを使えば読み書きできる人なら誰でもAIを扱うことができます。CADやBIMと大きく違い、特殊な操作を理解しなくても操作できるのが今のAIです。

法律について

良し悪しはさておき、日本という国、そして、建築という分野は、AIを巡る法整理の中で比較的AIを扱いやすい分野に入ります。

まず、日本は欧米諸国や米国と比較するとAIに対して規制が少ない国になっています。具体的には、2018年に成立した改正著作権法30条の4という法律があり、AIが文章や画像を学習する際、営利・非営利を問わず著作物を使用できると定められています。

例えば、カメラの顔認証機能で顔判別するためには、学習用のデータが必要になりますが、著作権を考慮するとなると多額の費用と時間がかかることになります。これで開発が難航しないよう整備された法律が30条の4のようです。今のところ生成AIにも同じように30条の4が適応とされており、画像を学習させることが他国と比べて許容されています。

さらに、そもそも建築は建築家が持つ権利が少ない領域です。著作権法上46条に書かれている通り、建築物は建築物で複製した際には著作権侵害に当たりますが、建築を撮った写真には基本的に建築家に権利が発生しません。

この2つの理由から日本の建築業界という分野は法の制限の観点からはAI活用が進みやすい環境にあると言えます。その他にも複雑なことが多いですがAIを触る方は可能な限り勉強をしておくことをオススメします。

AIによる変化の可能性


AIが何をどう変えるのかは現段階では見通しが全然つきません。ただ、何かしらの変化が起こらことは確実なので、その可能性を考えて備えておく必要はありそうです。未来予想に際しては、社会全体を俯瞰して考えること、今の業務自体を一度アンラーニングすること、の2つがポイントになると思います。

職能の今後は相対的に決まる

AIによって建築家の職能がどう変わるかの議論を見かけることがありますが、現段階の技術をベースにこれを論ずる事はあまり意味がないと思っています。その理由の1つは技術進化が早すぎて状況がすぐに変わってしまうこと。そしてもう1つは、職能は社会全体の変化に応じて相対的に規定されていくという点です。

基礎理解で触れたの通り、今のAIは汎用性が高く誰でも簡単に触れるものです。もうすでに、他ジャンルのクリエイターやインテリア好きな一般の方が、建築やインテリアのパースを出力する例はでてきていますし、これで仕事をする人も近いうちにでてきそうです。

となると、これを誰がやるかで職能は変わってきます。建築家がやれば今まで通りだけど、他の人がやるのであれば、視覚的なデザインはAIを使える誰かが行い、設計者はそれを図面にしていく職になる。そんな可能性もゼロとは言い切れません。
生成されたパースの質が低いからそんなことはないと思いたいところですが、クライアントが意思決定をできるのであれば、速さと数に長けているAIに業務は置き換わってしまいそうです。

プロセスがかわる

AIの活用は、既存のどの作業をAに置き換えることができるか効率化から考えることが多いと思います。一方で、現在のオペレーションに閉じて活用方法を発想するのは、現段階ではあまりオススメしません。

例えば、下記の例は大量の画像を出力して理想の空間を選び、その後にパズルを解くように平面のレイアウトを決定していった例です。普段であれば平面から設計を進めるかもしれませんが、AIがある世界においては設計のスタートをパースに変えることもできるかもしれません。
黎明期の今は、このようにプロセスそのものの前提を疑って考え始めた方がAIの良い活用方法が見つかる可能性があると思っています。


学び方


可能性に書いた通り、これから起きるであろう変化がプラスかマイナスかは、建築に関わる私達の動き次第です。早く学んで早く試せば業界がより良くなるはずです。最後に学び方のコツを少しまとめておきます。

言葉と仕組みを学ぶ

当たり前ですが、まずはAIに関連する言葉を学びましょう。例えば、LLM、Lora、prompt、controlnet、など。AIは進化が早く次々と情報が流れてきますが、それがなにを意味しているのかざっくりと理解できる状態にしておきましょう。

基礎から触る

兎にも角にも触ってください。その際に大事なの本家のAIを触ることをオススメします。例えばVERASやRenderyのような建築向けのAIもあります。

これはstable diffusionの機能を切り出してパッケージングしたものです。UIが使いやすく便利ではありますが、機能を絞っている為これのみ触った感触でAIを評価するとAIの可能性を見誤る可能性があります。今後の進化の可能性を見定めるためには、最初はMidjourneyやstable diffusionといった本家のAIから触ることをオススメします。


事例から技術の組み合わせを予想する

活用事例が日々流れてくると思いますが、それが何の機能を組み合わせてきているのか理解するようにしましょう。例えば、下記の2つは法規に関する事柄をAIに考えさせている事例ですが、使っているAIも技術も全く異なります。これが違うものだと理解できていることが重要です。

ここからがスタートライン


ここまできてようやくスタートラインです。1ヶ月真剣に向き合えばすぐに追いつけます。1ヵ月後と今始めるのではキャッチャアップコストが大きく変わるので、少しでも早く始めた方が苦労は少なくて済むと思います。わからないことがあれば、軽率にご連絡ください。


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