嘘と真

ちょっと皮肉(つかかなり毒舌かな？)

石巻の人々は一般に貧しい。その貧しい人々にちゃんとした医療を提供し、貧しい人々の社会的権利を守ろうというのは、あゆみ野クリニックを始めた時から私が一貫して持っている信念です。会社でパワハラを受けた人に「こんな制度がある」なんて教えたって一文にもなりませんが、私はやるのです。

しかしですね、ここからが毒舌なのですが、このグループでこの投稿を見ている石巻市民に伺いますが、東京ディズニーランド、行ったことありますか？たぶんかなりの人が、行ったことがあるんじゃないかと思います。

石巻から東京ディズニーランドに行って楽しむって、すごい出費です。仙台に出て、新幹線に乗って、ディズニーランドで高い入場料を払い(アトラクション代入れたら1万近く吹っ飛ぶ)、あの辺のみてくれ豪華で中身は質素だけどお値段は確実に豪華なホテルに泊まり、そしてまた新幹線で帰ってくる。家族で行ったら10万では足らないでしょう。でも石巻市民で東京ディズニーランドに行ったことがある人って、そう少なくはないはずです。

ディズニーランドというのは、「全部嘘」の世界です。お姫様がいて猛獣がいて魔法使いがいて幽霊もいますが、作り物です。別にディズニーランドが詐欺をやっているわけではありません。入り口に「これは全部嘘です」という看板こそ立っていませんが、全てが嘘で作り物だというのは、みんな承知なのです。

嘘って楽しいんです。楽しい嘘のためなら、いくら生活が苦しくても、人は喜んで金を出します。別に石巻市民に限らず、ディズニーランドを楽しむ世界中の庶民がそうなのです。

しかし当院の発熱外来に来て、昨夜から39℃の熱があるがコロナとインフルエンザの抗原定性キットは陰性だった。でも39℃の熱って、なんとなく出るわけじゃないですよね。何かに感染しているわけです。じゃあコロナのPCRをやりましょうかというと「いくらですか？」と訊かれます。保険が三割負担の人だと、検査の本人負担は2100円です。そう言うと、ほとんどの人は「止めておきます」というのです。

抗原定性キットは陽性なら必ずコロナあるいはインフルエンザですが、陰性というのはしばしば外れます。陽性は信用出来るが陰性は信用出来ない検査です。PCRはほとんど外しません。陽性なら陽性、陰性なら陰性です。つまり「昨日から39℃の発熱がおきて抗原定性は陰性だがPCRは陽性に出た」場合は、コロナです。それは、ざっくり言うと｢真実｣なのです(真実という言葉は突き詰めるとかなり難しいんですけど)。そして真実というのは、楽しくないのです。面白くもありません。むしろ辛いのです。

面白くて楽しい嘘には、人は生活が苦しいと言いながらいくらでも金を出し、いやな真実を知るために2100円を払う人は少ない。

はい、もちろんこれは石巻市民だけの話ではありません。ほとんど全世界の人がそうなんです。私もその一人です。

嘘は楽しく面白く、みんなお金を払うけど、真実というのは辛く嫌なもので、そんなものを知るために金を出す人はほとんどいない。

ネットの広告で(一見広告と分からないようになっている時もありますが)、誰も知らない、これが何とか病(ガンとか)の真実だ、と言うのは山ほどあります。あれは、要するに全部嘘です。見るときちんとした医学データは何も無く、｢治療を受けた患者さんの喜びの声｣がたくさん載っています。当院の事務長は昔ある出版社にいて、とある健康雑誌(当時はネットではなく雑誌)の制作に関わっていました。毎日せっせせっせと｢患者さんの声｣を書いたそうです。テキトーにお年寄りっぽいモデルをとっかえひっかえして、文章は全部彼が書いたわけです。それでみんな、喜んで金を出すんです。

ちゃんとした医療機関で「もう治療はありません」とか｢年齢ですから付き合っていきましょう｣とか言われるのは辛いです。真実だから辛いのです。嘘をばらまく業者は素晴らしい夢を見せてくれます。「諦めていた膝の痛みがこんなに！」みたいな。

ディズニーランドは嘘を真実だとは言いくるめませんが、ああいう連中は言いくるめるのです。でもみんな飛びつきます。嘘は幸せを与えてくれるからです・・・お金が自分の財布から消えた後、ほんのひとときのことではあっても。

ちなみに今、当院事務長は当院に無くてはならぬ存在です。私の診療に、献身的に協力してくれています。人間は変わるのです。


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