食糧問題とエネルギー問題、消費と環境。全ては連動する。
篠原信先生は京大卒の農学者だ。農学者だから食糧問題を論じている。しかし篠原先生の筆致は単に農業に留まらない。むしろ、食料問題、農業の問題というのが本質的にはエネルギー問題であって、今石油というエネルギーがコスト面から言えば限界を迎えている、しかしそれに替わるエネルギーがまだ確立されていないという事が日本だけでなく全世界の食糧問題の根本にあるのだということを浮き彫りにしている。
我らが東北大は実学優先主義だ。篠原先生が説く食糧問題と世界のエネルギー問題のリンクは、まさに「実学」だ。だって我々の飯が手に入るかどうかと言う、喫緊の問題なんだから。
しかし同時に、篠原先生の視野は深く、広い。食料問題は単に目先の技術開発でどうにかなる話ではないことを、この本は教えている。今我々が直面している食糧問題を理解するには、そうとうな世界的、かつ歴史的視野が必要なのだ。残念ながら、東北大学農学部にこれほど深く広い議論が出来る学者がいるか?いない。技術開発に取り組むにしても、どういう技術を開発するべきか、これほどの広く深い洞察を基にしなければ無駄に終わる。これは「篠原経済学」と呼んでもいいレベルだ。
実学優先というのは、目の前の業績を追いかけることじゃない。食い物が確保出来るかどうか、産業のエネルギーが確保出来るかどうかはまさに喫緊の問題であり実学だが、しかし長期かつ広い視野で論じなければならない問題だ。
科研費いくら獲れた、論文何本書いたというのは無論重要だ。しかしずっと以前に「大きな歴史的視野、世界的視野」がなければ、その研究は人類には役に立たない。科研費を取るための都合のよい理屈を捏ねるのは若造がやれば良いことだ。東北大学がこれ以上「世界に期して」活躍するには、今のままではダメだ。どうしてもこう言う歴史や全世界レベルの知識を基にデータを分析して物事を展開する能力が求められる。お役所に金を出させるだけではない、うーむと相手を唸らせる論理が必要だ。
「その時、日本は何人養える?」を読んだ。東北大は先進何とか大学に真っ先に指定されたことで、少々浮かれてはいないだろうか。京都大学を出た研究者は、これほど広く、深い視野で物事を考察し、かつそれを専門家でなくても分かるほど分かりやすく本に出来る。残念ながら、今東北大に、日本だけではなく全人類が直面している課題について、これほど広い視野で、かつ深い洞察を加え、それもきちんとデータに基づいて議論し、しかも専門外の人間に分かるようにかみ砕いて説明出来る人間がいるだろうか?
東北大学副学長にまでなった同級生大隅先生には、是非このことを深く考えて欲しい。何とか先進大学になったのは無論喜ばしいが、これほどの智の人を東北大は有しているか?これは問わなければならない。
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