「大豆ミートと米輸入」




今夜一緒に石巻のクリニックから戻った相方が大急ぎで用意したのがこの炒め物でした。食べている間に相方はおずおずと「これ、なんだか分かる?」と言ったので、私はすぐに「うん、これは大豆のタンパク質だよ。中国やタイでは昔からこれをこうやって炒め物で使う。俺はこれが好きだよ」と答えました。



要するに湯葉と同じものなのですが、大豆のタンパク質だけを分離したものです。中国でもタイでも、これは昔からありふれた食材で、主に炒め物にします。他の調理法もありますが、炒め物に合うようです。



相方はややほっとした表情を浮かべました。これって、挽肉と混ぜるともっと食べやすくなるみたいなんだけど、と言うので、私は「そんなことをしてはダメだよ」と言いました。



1993年、東日本一帯が異常寒冷気象となり、米所東北は遂に夏がないまま秋になりました。寒冷な、ひやーっとした異常低温の梅雨のまま、夏がなくて秋になったのです。



東北地方以外の方はあまりご存じないかも知れませんが、東北地方の梅雨は肌寒くて湿気が高いのです。他の地方の「蒸し暑い梅雨」とは違います。「日本には四季がある」と言われますが、東北地方の梅雨はじめっと肌寒いのですから、春でも夏でもない。つまり東北地方は五季なのです。



それはそうなのですが、1993年は明らかに異常でした。結局そのじめっと肌寒い梅雨のまま、1日も夏が来ず秋になってしまったのです。



当然東北地方は大凶作になりました。米が実りません。



その時助けの手を差し伸べたのが中国とタイでした。無論他国も助けてくれたのですが、米の緊急輸入量で言えば中国米がトップ、タイ米が第二位。



しかし、ここで日本人は二つの過ちを犯しました。



あの「米がない秋」、一番大量の米を輸出してくれたのは中国です。108万トンでした。しかしこれは、日本では一切報道されませんでした。中国米は日本米と比較的近い、短粒種です。だからそれほど違和感なく食べることが出来ました。しかしあの大干ばつの年、世界で一番たくさん米を緊急輸入してくれたのが中国であることを、当時のマスコミも報道しませんでしたし、それは未だにごく一部の人しか知りません。明らかに、偏向報道、事実隠しでした。



タイ米については問題が生じました。タイは中国に次ぐ77万トンの米を緊急輸入してくれました。本来これは、他国に輸入するはずのものだったのです。それを突然米の凶作に襲われた日本に輸出すると決めたのは、最終的には当時のプミポン国王、ラーマ9世だったようです。



ところが日本では食べ慣れないインディカ米をどうやって国民に食べさせるかについて、日本政府はとんでもない間違いを犯しました。なんと、日本米とタイ米を混ぜてしまったのです。



ジャポニカとインディカでは、当然調理法も、またよく適合する料理も違います。しかしジャポニカとインディカを混ぜてしまったので、それはまさに「煮ても焼いても食えない」代物になりました。



ジャポニカ米は、まさに和食に合うわけです。ご飯に味噌汁、焼き魚。そこにインディカ米は馴染みません。どうしたって不自然です。



しかしその当時、既にカレーは日本の国民食でした。カレーだけでなく、チャーハンもピラフもおなじみでした。カレーやチャーハン、ピラフなら、断じてインディカ米が美味い。それは現地で食べた人は皆知っていることです。インディカは味を吸い込みます。インディカ米はぱらっとしていますから、料理の味を吸い込んで美味くなるのです。だから政府は「カレーやチャーハン、ピラフ、それに油炒めに合います」と国民に勧めるべきだったのに、なんとタイ米と僅かに取れた日本米を混ぜてしまったのです。これでは、炊きようがないのです。炊きようもないし、食いようもない。それで当時日本人は「こんな不味い米!」とタイ米を悪し様にしました。



自分たちの国の米が穫れず、外国にSOSを出した結果、一番大量に出荷してくれた中国には一言も触れず、2番目に大量に、本来の輸出先を断って輸出してくれたタイには「こんな不味い米!」と言った。



むろん、日本米とタイ米を混ぜたらどうやっても炊けないのですから、それは不味いに決まっています。しかし日本に同情して救急輸入してくれた中国やタイの人々はそういう日本の世評を聞いてどう思ったでしょうか。中国の親切は無視され、タイの親切は悪し様に貶されたのです。当時はまだネット社会ではなかったから、向こうの反応は直接には日本人には伝わりませんでしたが、当然現地では相当の怒りの声が上がったのです。



ええ、当時の日本はJapan as No.1でしたから、こうした近隣諸国の親切を無視したり悪し様に貶しても、向こうは黙っていました。しかし、私はその頃から、日本の凋落は始まっていたのではないかと今にして思います。



驕るもの久しからず。



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