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不器用で剥き出し、だけどわけがわかる人。フクロウラボの社長、清水さんのはなし

いい仲間を迎えるために、会社のことやメンバーのことを伝える採用広報。手段は色々あれど、記事で会社やメンバーのことを伝えるのは鉄板だ。私の仕事の半分は、そういう採用広報の撮影と執筆の仕事で、中でも長年担当させていただいているのがフクロウラボ。この数年間の間に桁が変わるほどメンバーが増え、オフィスも何倍にもなった。そう言うと、イケイケのスタートアップで、ちゃらちゃらした雰囲気のように思われるかもしれないけれど、これが全くそんなことはない。そこで、不思議な社長、清水さんに出会ったのは3年前のこと。今日は、フクロウラボの社長、清水さんのことを書いてみる。

「こわ」

「じゃ今から僕のことと、会社のこと話します」

確かTwitterか何かで仕事の依頼をしてくださった清水さんは、オンラインミーティングでこう話し始めた。仕事の依頼を受けて最初のミーティングと言えば、雑談をして、おっ、共通の知人がいますね、ああ世界狭いですねえなんて話をして......というのに慣れていたので少し面食らう。そんな私をよそに清水さんはまず自己紹介、その後会社設立の経緯、と慣れた調子で話を進める。ぶっきらぼうな口調に、正直な第一印象は「こわ」だった。裏腹に、ひとつひとつの言葉は文字起こしすればそのままどこかに掲載できそうなほど迷いがなく、誠実で丁寧だ。

出会った頃の清水さん。

この人全然、自分の自慢話とかないんだな。私はそういうのを聞くのも好きだけど。けれど、必要な情報としての自己紹介以外、そういった類の話はなかった。ついでに言えばこちらへの質問もない。ああこの人、自己開示が好きじゃない上、人にも興味がないんだろうなと思った瞬間、こちらの緊張も溶けた。話に相槌を打ちながら、一瞬昔のことを思い出す。

開示できる自己なんてない

私が新卒で入社した会社はかなりのスパルタだった。そこで慣れないビジネス用語や社内用語をたくさん覚えた。ステイクホルダー、クロージング、といったカタカナの言葉ならまだ外国語のように覚えることができたが、苦手なのは日本語なのにも関わらず、これまで聞いたことがなかったワードだ。なぜなら、それはまさに新しい文化であり、それまで求められることのなかったことだからだ。

中でも苦手だったのが「自己開示」。素のままで過ごした12年の女子校時代ともともと趣味が合う奴らが集まった美大時代のあと、急に放り込まれた会社で開示できる自己なんてあるわけがなかった。こちとら別人の仮面を入念にかぶって入社しているのである。

この「自己開示」が求められなくて楽だったのが、その後飛び込んだIT界隈だ。業界、と書かないのは、大きな会社は除いて、ってこと。人数が数名のスタートアップが乱立した黎明期、そのどの社長もだいたいかわいい「コミュ障」で、それを支えるCTOもご多分に漏れず。すなわち「自己開示してこいよ」と求める人なんていなかったのだ。みんな不恰好な自己を知能と技術でくるんで働いていて、お互いにそれを剥がそうなんて野暮なことはしない。そういうのが好きだった。

それでも一度困ったことがあった。最初は居心地が良かった「何を考えているかわからない同士」も、会社のフェーズが変わればそうはいかなくなる。人数が増え規模が大きくなって、今まで見なかったこの課題を後回しにしたまま、その会社は辞めてしまったんだ。

心地よい違和感

さて、目の前の清水さんはじっくりと事業の説明をしてくれる。ただ編集とライティングを発注するだけなら、必要なスキルセットでも聞いて採用するかどうかを決めて、世間話でもして「あとは現場とよろしく」で済むはずなのに、会社を立ち上げた経緯からひとつずつ、ぶっきらぼうな口調で丁寧な内容を話してくれた。

この人はなんだろう?この丁寧な情報共有はなんだろう?

心地よい違和感を残しながら、フクロウラボの仕事は始まった。仕事が始まってしまえば現場の人懐こくしっかりものの人事のみなさんに支えられ、なんだかんだと記事が仕上がっていった。あの違和感の正体が気になっていたのだ。すっかりメンバーのみなさんの顔と名前を覚え、駅からオフィスに迷わずに行けるようになった頃、清水さんの取材と撮影をする機会が巡ってきた。

不思議な清水さんの正体

取材をしてみて驚いた。「僕けっこう人に興味がないんで」「考えみたけど、思いつきませんでした」取材で時々こんな言葉が出てくる。そんなの、人に興味があることにしちゃえばいいじゃない。ベストな答えが思いつかなくても、それっぽいこと言えば終わるのに。その場でうまく取り繕ってしまったほうが楽なことをそうせずに、剥き出しのままにしている。

撮影はと言えば「僕写真苦手なので」と言われて、じゃあ笑顔で、とお願いすると「笑顔?笑顔ってなんだ...」と考え込んでしまった。不器用にもほどがある。剥き出しにもほどがある。けれど、真夏の立っているのも厳しいアスファルトの上で撮影した写真で、清水さんはけっこういい顔をしているのだった。

最初の撮影時から。真夏だったのになんだか楽しそう。

最初は「こわ」と思っていた清水さんのことが、何度か取材をしてオフィスで顔を合わせるうちに少しずつわかってきた。

自己開示ができないからインスタントな仮面をかぶって働いていた新人時代の私と違って、この人は仮面をかぶらないという誠実な選択をしたのだ。ぶっきらぼうな物言いや、人に興味がないと言ってのけてしまうこと。みんなと違うところにあるやりがいやモチベーションの原点。それらを隠さずに伝えようとしているんだ。そう思うと、数多いるとっつきやすいビジネスマンより、清水さんのほうがよほどわけがわかる人に思えてきた。

「人が好きです」「夢を持って会社を立ち上げました」と言われるより、よっぽど本当らしかったから。

この仕事をしている数年間の間に、フクロウラボのオフィスはキャッチボールができるほど大きなところに移転して、メンバー専用に立派な休憩スペースまでもができた。久しぶりに清水さんの撮影をしてみると、なんとカメラを構えた瞬間に満面の笑顔.......!

人事の方に聞けば「最近、努力してるらしいですよ」とのこと。そう言えば、撮影の時に「これからはこういう写真が必要になるので」って言ってたなあ。そして先日行った取材で、その答えのようなものを聞いた。

こうして自分のキャリアを改めて振り返ってみると、フクロウラボの社長という役割が、僕の人間性をも変化させてくれたように感じます。これまでは他人に対して興味がなかった僕が、会社の成長と共に従業員や組織により向き合えるようになり、人として成長することができました。

https://blog.fukurou-labo.co.jp/n/nc2730722ee4a
メンバーと撮影する時はちょっと嬉しそうな清水さん。

おそらく、自己開示が苦手なところまでは、私と清水さんは少し似てた。だけど、清水さんはそれを適当に取り繕わずに、自己のほうを少しずつ変えて行った。

社長をしている人の中に、嘘をつかず、社長っぽいキャラを作らずメンバーと接している人が何人いるだろう。最初はそれがコミュニケーションを簡単にしたとしても、どこかのタイミングで本音でぶつからなければ仕事にならないことを私は知っている。

それなら、こんなにわけがわかる社長はいないんじゃないか。そんな人になら、長い間ついていってもいいよなあと思う。それに答えるように、清水さんはこう言っていた。

「社長として2040年まではたらき続ける」。そう決意してからは、従業員に対するメッセージを心からの言葉で伝えられるようになりました。いつか辞めてしまう中途半端な気持ちではなく、創業者として筋を通すと決意したからこそ、意思決定がより強いものになったのです。

https://blog.fukurou-labo.co.jp/n/nc2730722ee4a

(おわり)

筆者注)この記事はフクロウラボのみなさんにご依頼いたいだき自由に執筆させていただきました。

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