こぐまは森の片隅で金融の未来について考える。

はじめまして、こぐまと申します。
普段はTwitterで金融垢として日本の金融リテラシーを上げるために活動しながら、日中は金融機関でデリバティブ関連業務に従事しています。
これは僕の頭の中の落書きで整理しきれていないですが、金融を通じて世の中が少しでもベターになればと思って考えてみました。今後も少しずつ追記していきたいと思います。


1. 顧客目線で見たDX

昨今バズワード化しているDXには、有識者の方々が言うように複数の段階があると思う。切り口は色々あって良いと思うが、今回はサービスを受ける顧客の目線からDXを次の3つに分けてみます。
① 既存業務の効率化
② ビジネスの一部デジタル化
③ デジタル化以降

この3段階と並行して、オンラインという新たなビジネスチャネルが走っている。まず、リテール金融におけるオンラインの歴史をおさらいしよう。
1990年代に入り、一般家庭のおけるPC普及に伴い、都市銀行はテレフォンバンキングをオンラインで行えるようなサービスを考え始めた。
1997年、旧住友銀行が日本で最初のインターネットバンキングサービスの提供を開始、24時間いつでも残高照会や振込等の銀行サービスが利用できることは当時としては画期的なものだった。その後2000年代に入ると、金融自由化の波に乗り店舗を持たないインターネット専業銀行が誕生し、今に至る。

一方、証券においては1996年に大和証券が初のオンライントレードサービスの提供を開始、続いて松井証券がオンライン専業へと業態変換を図り、日本で初めてのインターネット専業証券会社が誕生する。
このオンラインという流れは、銀行・証券サービスともに、既存の金融サービス自体は何ら変わっていない。あくまで従来であれば対面で行っていたものが、インターネット上で行えるというだけである。これは今でも大きくは変わっておらず、オンラインとオフラインのサービスが並行して存在しているのが現状だと思う。

話をDXの3段階に戻そう。

① 既存業務の効率化
これは金融機関社内におけるプロセスが、システム化されたり、従来は紙ベースだったものが電子記帳(デジタル化)になったりするものだ。これにより、金融機関内における業務は効率化され、社内リソースの無駄は少なくなるが、顧客から目に見える変化はそれほど大きくない。従来であれば数日かかっていたものが即日できるといった変化はあるかもしれないが、提供される金融サービスの形態自体は不変なのだ。

② ビジネスの一部デジタル化
ホールセールの分野において一番分かりやすい事例は、様々な金融取引のe-プラットフォーム化だと思う。そもそも取引所取引だった株式や比較的プラットフォームと親和性が高かった為替のみならず、相対取引が基本だった債券やデリバティブ、仕組金融商品についても近年急速にe-プラットフォーム化が進んでいる。ホールセールの分野において、難しいと思われていた商品群にもこの流れが訪れた理由のひとつは「規制」だ。高い透明性と公平性を規制が求めた結果、対応コストを吸収するためにはプラットフォーム化しか
なかったのだと思う。業界全体の規制対応コストを極小化するためにデジタル化が進められたわけだ。この点は覚えていて頂きたい。

リテール金融においてはあまり例が思いつかない。クラウドファンディングなどの新しい金融サービスは、今まで閉じたサービスだったものをデジタル化によって広く開放したという意味で該当するだろう。この2.と前述の1.の明確な違いは、顧客が「新しい形のサービス」を享受しているか否か、顧客が明確にサービスの変化を認識できるかどうか、だ。

③ デジタル化以降
これは文字通りアフターデジタルの世界だ。全ての金融サービスはオンラインで提供されることが前提になる。この第三段階が訪れた時、何が起こるのだろうか。
もはや、PCあるいはモバイルで全世界のETFにアクセス可能、24/7いつでも金融取引が行えます、では何らの差別化要因にならない。まず最初に起こるのは手数料の引き下げになる。これは既に至るところで発生しているので想像に難くない。サービスの提供に際して得る手数料率を引き下げていく、やがて基本的なサービスにおける手数料はゼロになる。
提供者側は、取引について手数料を徴求しない代わりに、顧客動態データをマネタイズする、広告やクロスセルによって収益を得るといった試みが活発化するのだろう。しかし、それらもいずれ差別化要因ではなくなる。

アフターデジタルの差別化要因は、アナログ(オフライン)なんだ。

サービスの提供がオンラインに移行し、便利になればなるほど、人はオフラインでのピンポイントなサービス提供に高い効用を感じると思う。銀行の窓口に行って、不必要な保険や投資信託を勧められることを煩わしくは思っても、リゾート地の高級ホテルで、名前を呼ばれて手厚いサービスを受けることを面倒だと思う人はいないだろう。今までの金融サービスは基本的にサービス提供時の手数料によって収益を得ていたので、過度なサービス提供にインセンティブが働く。たとえ手数料以外のところを収益源とすることができてても、顧客基盤が大きくスケールしなければグロス収益を稼ぐことはできない。オフラインでのサービス提要は、オワコンから表舞台にカムバックするんじゃないだろうか。

2. DX、UX、そしてデザイン思考

アフターデジタルの世界は、顧客サービスの提供プロセスすべてかオンラインでデジタル化されるため、アナログ時代よりもビジネスプロセスを見直すことが容易になる。
そうすると、既存の業務プロセスに固執することなく顧客が望む体験を提供するために、どのようにプロセスを作り上げるかというゼロベースの発想が可能になる。これは既存の大手金融機関にとって分が悪いところだ。レガシーシステムや肥大化、硬直化した組織、既存のプロセス・マニュアルすべてが逆風になる。スタートアップ企業に大きなアドバンテージがあると思う。
DXは金融ビジネスを自由にする。今までの業務プロセスという呪縛から解き放たれ、顧客が金融機関に何を望むか、どういったサービスを受けたいかを起点としてサービスを作ることができるはずだ。

今までは新しい商品・サービスを作り、それをいかに沢山売るか、だった。これからは、顧客が金融機関を相手としてどのような体験をして、そこに価値を見出してもらうかを考えるようになる。
よく言われるように、プロダクト起点か、カスタマー起点かといった話だと思う。そして最高の顧客体験を提供するために必要なのがデザイン思考なんだろう。
IDEOのデビッド・ケリーが言うようにとにかく観察すること。今までの金融機関で顧客を観察、観察し続けた結果としてサービスを生み出したケースがあっただろうか。おそらく多くはないと思う。

3. 日本に必要なのは金融リテラシーだ

こうやって考えてきて、さて新時代に必要な金融サービスは、新しい金融機関像はと問われても、恥ずかしながら明確な答えには行き着いていない。
しかしながら、自分の中でひとつはっきりしていることは、「日本人の金融リテラシーを上げることによって、金融業界はもっと発展するし、日本人の幸福度も上がるはず」ということだ。

近年、非常に多くの志高く、才気溢れる人たちが金融スタートアップを興している。新たなサービスが模索されている中で、成長の道は決して平坦ではないことが外野からもわかる。
個社名や個々のサービス自体に言及することはできる限り避けるが、いずれも金融リテラシーが目の前に立ちはだかる大きな課題に思えてならない。

例えば、おつり投資。アイデアはとても面白い。小銭を貯金箱に入れていたらいつのまにチリツモでびっくりというアレをオンラインで体験することができる。でも、考えてみると日々の買い物のお釣りでは、まさしくチリツモでもお小遣い程度で、将来への蓄えを育てるという観点では少し心もとない。おつり投資にもロボアドバイザーにも言えることだが、これらは長期投資によって目的が達成されるサービスだ。
長期投資には当然良い時も悪い時もある。30年経って、過去のパフォーマンスをグラフにしたら安定的な右肩上がりだったとしても、ミクロにするとある年は30%以上のドローダウン(最大資産からの下落率)を被ったりするわけだ。長期投資を正しく理解していれば最悪期を乗り越えられるかもしれないが、理解していなかったら「やっぱり投資は危ない、もうコリゴリだ」といって止めてしまうかもしれない。

トマ・ピケティは著作「21世紀の資本」において、膨大な量のデータをもとに資本収益率>経済成長率であることを示した。これは、資本家がどんどん豊かになり、経済格差が拡大する残酷な現実を表しているが、同時に労働者も投資によって資本収益率の恩恵に与ることができるともとれる。これを理解していれば、目の前の仕事を頑張ることと同様かそれ以上に自分の虎の子をゆっくりと末永く育てていくことの重要性に気付けるはずだ。

金融リテラシーが低いから、投資は儲けるものだと勘違いをし、投機に走り、大部分の人は損失を出して資産運用から退場していく。本当は育てるものなのに。
金融リテラシーが向上すれば、数ある金融スタートアップも今以上に輝くはずだ。厳しい目でサービスの選別も進むと思うが、金融業界全体のパイは大きくなり発展するだろう。

4. 金融業界の仲間たちに伝えたいこと

メガバンクの人も、証券会社の人も、資産運用業界の人も、保険業界の人も、そして金融スタートアップの人も、金融業界の人はみんな仲間だと思っている。
みんなに伝えたいことは、たとえ一人の力は微力でも、僕たちは力を合わせて日本人の金融リテラシーを向上させなければいけないってことだ。
さもないと、マーケットは徐々に縮小していき、今までのサービスをちょっとした効率化でなんとか提供するだけの斜陽産業になる。新たな価値を生み出すためには、教育が何よりも必要なんだ。
みんな勤勉なのに、なぜか幸福感が薄い。借金まみれの欧州ラテン諸国に負けてるなんてなんかくやしい。日本人はもっと幸せになっていいはずだ。
そして、社会インフラである金融業界にいる僕らにはその手伝いができるはずだし、それが社会的使命でもあるはずだ。

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