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身を引き裂かれるような失恋から向き合い始めたセックスの意味

性の移行を終え、大変お世話になった会社を退職。実家に戻り男性として新たに歩み始めた頃、通勤に1時間以上はかかる所へ入社。そして転職先にいた女性を大好きになった。

今までと違い僕には生活に困る事がなく、ハローワークへ行っても、面接してもめんどくさい事はなく、スムーズに営める「普通の生活」を満喫していた。

その最中に出会った女性。モデルの様なスタイルで背も高くキリッとした顔立ち。なんだか厳しそうな人だが、実はよく人の事を考えて動いていて、僕は最初からこの人の事を好きになるだろうな。と、感じていた。
予感というか、もうその時から気持ちはあったんだろう。

ある日、彼女への気持ちが溢れ、帰りにコーヒー飲みに行こうと誘った。それまでは同僚達と何度も行っていたが、この日は初めて二人きり。誘うだけでも緊張していた。

僕は過去女性二人と付き合っていた。どちらも僕の体が女性だった事を知っていた。そしてどちらも告白などがあったわけでなく、なんとなく交際が始まった。
そんな恋愛経験が乏しい僕が「好きです!付き合ってください!!!」と、カフェのテラス席で告白した。ストレートに正面から相手に気持ちを伝えた。

その時から付き合いが始まる。僕は人生最高に幸せだと思った。自分がシス男性だと勘違いしていた。トランスセクシャルだとカミングアウトはしてなかった。

「彼女の気持ちは?」

もし、僕との付き合いの先を考えてくれた時、彼女の想像する未来はない。彼女の気持ちを考えると不誠実だから言わないといけないという思いと、知られて失くす怖さに堂々巡りだった。
そして彼女の貴重な時間を奪ってしまうと思った僕は彼女にカミングアウトした。すると彼女は「よくわからないけどいいよ!」いつもの様に無邪気な声で言ってくれた。

しかし僕自身どこかで諦めていた。いくら彼女が大好きでもきっと終わる。だから今のこの時間を楽しく過ごそう!

こんな気持ちでいたせいか、2年も彼女と向き合う事もせず、楽しく旅行ばかりを繰り返した。彼女はどう考えていた?僕のGID問題に触れなかった彼女が一度だけセックスの最中に「どうしたらいい?」と聞いた。僕は「わからない」と答えた事をのちにずっと悔やんだ。僕は自分に向き合う事をしなかった。気を使って触れてこなかった彼女が意を決したであろう言葉を拾わなかった。あの時が僕と彼女の可能性をなくしたきっかけになったと思っている。

僕は、自分の体に嫌悪して生きてきた。だから自分が気持ちよくなるような事をさせた事もなかった。形成してから一緒にお風呂入ることができる様にはなれたが、どうしてもらっていいのかわからない。彼女に気持ちよくなってもらえるのは嬉しいからする。そしてコンプレックスからか、受け入れられてるかを量るのにセックスをしていた事に気づいた。

受け入れてくれる=愛されてるととても短絡的で乱暴な考えが僕にあった。幼く、弱く、情けない。その後、彼女のいう不安を僕は聞こうとせず、彼女が離れていくように感じ不安を抱き、不安だから彼女を求める。彼女はそんな僕の気持ちが重く疲れ果てる。僕は笑顔が減った彼女をみて益々遠く感じていく。

「終わる前に◯◯の気持ちが知りたい」

僕が終わりを仕向けた。
どうしていいのかもわからず、彼女の「◯◯といると楽しいからまだ一緒にいたい」との言葉をなぜ疑ったんだろう。沼の様にいろんな感情に囚われて深呼吸する事ができなかった。

もう、別れよう。と、言わせたのに。
散々、友人(このトランス男性)に泣いて愚痴って爆発させたのに、数ヶ月後電話をしてしまう。声を聞いて後悔した。そして電話番号を消した。

それから5年、ずっと彼女を引きずっていた。その間、たくさんの人とセックスした。本名さえ知らないセフレはちょうどよかった。僕を知らないから試すことができた。相手も好奇心から楽しんでくれたりもした。この関係は寂しさを紛らし、その時間は彼女を忘れることができた。

自営業を始め、仕事に遊びに熱中した。それでも彼女が忘れられず、いつか再会するその時のために一人でいたい。あの時の向き合えなかった僕じゃなく、彼女の不安だと言った気持ちや、未来を話し合っていきたい。死ぬまでその時を待つと思っていた。しかし、待ってたって彼女は来やしない。もう、僕の事は忘れている。だけど、もう少し、もう少し待とうーと、彼女の事を想いながらぐるぐると考えていた。気がつくと5年経っていた。


僕と身長が変わらない彼女は僕の横に並ぶと、僕の肩に肘を乗せるのが常だった。
そして「あいかわらずブサイクだね」と、僕の肩をポンポンと叩き寄り添ってきた仕草がとんでもなく可愛くて、ブサイクでよかったと本気で思っていたんだ。

その姿や声を思い出しては泣き、自分の弱さをトランスセクシャルに結びつけた事に腹が立って、二度と戻らないその時を悔やんだ。

彼女との出会いと別れは僕にとってとても重要な縁だった。もし彼女と出会っていなければ、妻とは出会っていない。自営業もしていないかもしれない。深く考えもせず、妥協しながら生きてきたかもしれない。

そして今の僕にとってセックスは愛を量る行為ではなくなったしコンプレックスもない。

そんな考えに落ち着いたきっかけになった僕のちょっと遅めの青春の話。

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