富士西湖冬キャンプ日記2~助手席の運命~
★登場人物
F :ガチキャンパー。趣味にかけるお金は一切惜しまない。「欲しい」と思った時には既に購入が終わってる男。「欲しかった」なら使っても良い。イシバシ楽器のポイントカードが百万円分をオーバーしている。
S :ガチライダー。ツーリングに持って行くギアは半分アウトドア用品なのでキャンプに使える物もある程度取りそろえている。今回の旅の目標は「キャンプにハマりすぎないこと」。出費がヤバくなるので。
僕(K):ガチゲーマー。基本的に貧乏性なのだが、「これオススメ」と言われた本に電子版があった場合、紹介されて一分以内にKindleで買わなければならないというルールを自分に課している。
★出立
ちょっとでも温かい方が良いかなと思って、わざわざ着脱が面倒くさいブーツを履いて、玄関の鏡で自分の姿をチェックする。どれもこれも最近買ったばっかりのギアなので値札が見えるかのよう。
わお、新鮮な格好だ。買ったばかりのアウトドア向けパーカーを身に纏った自分に少し驚く。普段だったらこんなコーデはまず試さない。早くも衣食住の衣が生まれ変わりつつあるぞ。ワクワクしてきた僕は家を出た。最近極寒続きだったが、幸いにも今日は結構暖かい。これなら脅されていたほど怖い目に遭わなさそうだな。むしろこの装備じゃ暑いくらいだぜえと余裕ぶっこいてた僕は買ったばかりで一度も袖を通していない高級なインナーダウンを家に忘れた。
バカかてめえは!
★助手席で起こること
『バイク乗りに朝の集合時間を決めさせるべきではない』とはSの談だ。ツーリストは朝が早いから、集合時間を聞かれたら遠慮なく早朝を指定してくるのだ。
キャンプでわざわざ早朝の出発が必要なのか? という疑問があったが、テントの張り場所は早い者勝ちなので、例えばシーズンによっては一日100張りのテントが立てられるような人気のキャンプ場は、朝3時に出発しないとベストスポットは確保できないのだそうだ。
なんというか、僕らって趣味に対してお金を惜しまないけど、それ以上に労力を惜しまないよな……
とはいえ今回のキャンプ場は西湖という穴場スポットなので8時出発で問題ない。僕も朝には強いので余裕で集合できた。
「おっすK! 久しぶり! ジーパンだけど大丈夫? 死ぬよ?」
「就寝用の装備は万全だから死なないはず! でもインナーダウン忘れた!」
Fの、ビンテージ感溢れる車の後部座席に乗り込む。Fが運転手、Sが助手席、道具が後部座席とトランク。僕は後部座席の2,3割くらい余ったスペースにちょこんと腰掛けた。お道具様は偉いのだ。何しろ過酷な自然に対して無防備な僕たちの命を守る存在だ。テント、テントのポール、たくさんのシュラフ、マット、調理器具、トランペットのハードケース……
「いやなんでトランペットあるの?」
「吹きたかったから」
「そっか。僕もカホンとか買って持ってくりゃ良かったな」
めっちゃかさばってるんだけど、気持ちは分かるので納得した。開放感あるキャンプ場で自分だけの音を鳴らしたら気持ちいいだろう。
「もし可愛い女の子がヒッチハイクしてきたらKには降りてもらうから」
「もらうから」
「その女が『名古屋まで連れてって♡』とか言い出しますように……」
軽口をたたき合ったり、共通の知り合いの話をしながら車は下道を走っていく。車内BGMはダ・カーポⅡの楽曲。かつての時代を生きてきた者達には分かる青春時代の象徴だ。僕はプレイしたことないんだけど。
「あの頃ギャルゲエロゲが無かったら俺の世界線変わってただろうなあ。後悔はしてないけど」
「大事な時期を狙ってキラータイトルが発売してたよねあの頃は」
「あの頃の曲なら全部入ってるよ、S。俺のスマホのプレイリストから好きな曲流してくれ」
「パスワード分かんね」
「誕生日」
親しみやすい笑みを浮かべて、Fは得意げに言う。
「俺の助手席に座った奴、みんな俺の誕生日覚えるんだよ」
相変わらずFの言い回しは天才が過ぎる。
つづく。
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