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【ブログ】「アドラーは科学じゃない」か?

2022年8月19日(金)

8月5日に甲府でやった読書会のことを思い出しています。色々な意見をもらいましたけど、その中で「アドラーは科学じゃない。そもそも心理学は科学じゃない」という意見が記憶に残っています。記憶に残るということは、そのことが私にとって重要なトピックだということを表しています。

「そもそも心理学は科学じゃない」と発言した根拠として「再現性問題がある」ということを出していました。私からしてみると、再現性問題が問題として出てきたこと自体が科学であることの根拠となるのです。探してみるとこんな論文が見つかりました。読むに値するものです。

平石・中村 (2021) 心理学における再現性危機の10年:危機は克服されたのか、克服されうるのか 科学哲学, 54-2, 27-50

結論として次の3つの方向性が考えられるとしています。

  1. 要素還元論アプローチを継続し、小さくとも頑健な効果のコレクションを積み上げていく

  2. 特定の時代と社会においてある現象が見られたという歴史的記述(スナップショット)を蓄積していく

  3. 第1, 2のアプローチによって得られた知見を統合する

ポパーの「反証可能性」

これとは別にポパーの「反証可能性」を検索していくとこんな記事が見つかりました。

シンノユウキ「反証可能性について【科学と疑似科学の間に線引く】」

この中で、反証不可能なものの例としてフロイトとアドラーが出てきます。

すなわち、子供を溺死させようとして水中へ投げ込む男の行動と、子供を救おうとして自分の生命を犠牲にする男の行動である。この二つの事例のいずれもが、フロイト理論、アドラー理論のいずれをとっても同じくらいに容易に解釈する事ができるのである。フロイトによれば、最初の男は(たとえばエディプスコンプレックスの一部を構成している)抑圧に苦しんでいるのであり、第二の男はその昇華に成功していることになる。アドラーによれば、最初の男は劣等感に支配され、そのため犯罪さえもあえて犯しうることを自ら証明する必要に迫られているのであり、第二の男も劣等感は持っているが、彼の必要としているのは、あえて子供を救助できることを自ら証明してみせることでもある、ということになる。(引用)カール・ポパー. "推測と反駁." 藤本隆志, 他訳. 法政大学出版局 (1980).

なるほど「アドラーは科学じゃない」発言した人はこれを読んだのかもしれませんね。この本で、アドラーは、ポパーに擬似科学として認定されてしまったのです。

アドラーもフロイトも科学の枠組に乗る

このポパーの「後付けでなんとでも説明できるものは科学ではない」という主張は良いと思います。しかし、フロイトとアドラーの例は不適切だろうと思います。

なぜなら、フロイトのエディプスコンプレックスでも、アドラーの劣等感でも、それが構成概念として定義され、かつ測定する方法が確立されたとすれば、それを使って予測とその検証が可能となり、科学の枠組に乗るからです。要するに、「子供を溺死させようとして水中へ投げ込む男の行動」を後付けで「あれはエディプスコンプレックスの現れ」や「劣等感の現れ」と説明する行為は科学ではないというだけのことです。

ですので、劣等感を定義し、その測定法を確立すれば、それがある人の特定の行動傾向を予測するかどうかが検証できます。それはまさに科学の行為となります。

元々、科学、とりわけ心理学が扱う「構成概念(Construct)」は仮説的なものです(仮説構成体とも呼びます)。構成概念を仮定したあとに、それを実際の現象にマッピングしていき、その妥当性を問うていくのがまさに科学という行為なのです。

アドラー心理学は科学として扱うことができますよ。しかし、後付け理論として使うなら、それはアドラー心理学をまとった似非科学ということですね。

そして心理学の再現性問題

「心理学・行動経済学等の著名な研究論文が次々に追試失敗【心理学】」と題されたこの記事が反響を呼んでいます。心理学では数年前から「再現性問題」というトピックで話題にされてきました。

しかし、このツイートが言うように、追試できること自体が科学の枠組に乗っているわけです。

しかし、それにしても、ここで取り上げられている、「マシュマロ・テスト」「一万時間の法則」「グロース・マインドセット効果」「自我消耗」は、自分の授業や講演の中でしばしば言及してきた理論や仮説であるわけで。「ちょっと困ったな」という感じはありますね。

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