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(036) オンライン教育では物理的距離ではなく交流距離が重要。

先日、マシュマロでこんな質問を受けました。

[Q2] 先生が現時点で、オンライン授業の課題点と感じる部分はありますか?

その回答がこれです。

[A2] オンライン授業の問題点として、対面授業の問題以上のものはありません。オンラインでは、教員が提供した学習リソース、学習者の学習活動、それへのフィードバックがすべて可視化されますので、改善しかありません。

マシュマロの回答では100字の制限がありますので、端的に縮めました。これをもう少し説明します。

・オンライン授業の問題はもともと対面授業の問題である

オンライン授業の問題点として挙げられるものは、もともと対面授業でも問題となっていることです。たとえば、「オンライン授業では学生が何をしているのかわからない。授業を聞かずにネットサーフィンをしていても、誰かとチャットしていても、内職をしていてもわからない」という指摘があります。しかし、それは教室での対面授業でも同じです。むしろ隣の人と私語をして授業の進行を妨げるようなことが起こらないので、オンラインの方がましだということもできます。

オンラインコースではドロップアウト率が高いという問題があると言われます。確かにそれは問題ではあります。しかし、ドロップはオンラインだけではなく対面でもありますので、程度の問題と言えます。むしろ対面授業では、最後まで出席していても最終テストで落ちるということがあります。つまり、到達目標に達しなかったということです。それは最終テストをやるまではわからなかったことです。オンラインコースでは、ドロップすればすぐにわかります(課題の提出がないなど)。そこで早めに介入することができます。どちらが絶対的にいいということは断定できません。

さて、いまふってわいたように盛んになりつつあるオンライン授業は、今から50年前の1970年代にその発端があります。もちろんインターネットもまだない時代です。それは「遠隔教育 (Distance Education)」と呼ばれるものです。さらにさかのぼると、1886年の「早稲田講義録」が通信教育のはじまりと言われています。

藤岡英雄 (1980) は「通信教育の可能性—遠隔教育論的アプローチ—」という論文の中で下のような図を示しています(『教育学研究』47(4), 298-307)。

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直接的・対面的教育では、共通の学習の場(CF)の中で教授者(T)と学習者(S1, S2)がやりとりを行います。それに対して、遠隔教育では、学習者はそれぞれに個別の学習の場(IF)を持っていて、そこで学習媒体(M)をやりとりします。必要に応じて、共通の学習の場(CF)を使って、スクーリングや共同学習を行います。それは個別学習の補完と強化のためのものです。

・学習リソース、学習活動、フィードバックがすべて可視化される

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