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【研究】記憶は一筋縄ではいかない

2024年8月23日(金)

金曜日は研究の話題で書いています。

私は、1990年に初めての常勤職を富山大学教育学部に見つけます。そこから徐々に教育の臨床的な研究に向けていくのですが、それまでは実験心理学的な研究をしていました。具体的には、文章の読み、記憶、眼球運動の実験などです。

そのころは、とりわけ北海道大学にいた今井四郎先生の記憶やパターン認知の研究に強く影響されていました。次の論文は「逆説的下降」という記憶の現象を研究トピックにしたものです。

Kogo, C. & Koshikawa, F. (1991) Paradoxical fall in Hebb digits task: Mode change in the search process. Japanese Psychological Research, Vol.33, No.2, 97-101

逆説的下降というのは、同じ刺激を何回か繰り返して覚えることをすると、順次成績が上昇していくのですが、なぜか3回目あたりで一度成績が落ちるという現象のことです。

具体的には9桁のランダムな数字を提示して覚えてもらい、直後に再生してもらうという試行をしていきます。ランダムな数字は毎回の試行で異なるものを提示するのですが、こっそり、同じ数字列を何個目かごとに繰り返して提示します。そうすると、被験者は同じ数字列が繰り返し出ていることに気づかないにもかかわらず、繰り返し提示されるごとに正答率が上がっていきます。しかし、それは単調増加ではなく、3回目の繰り返しでいったん正答率が下がるのです。

このグラフでは、実験群(Exp.)では、特定の数字列が繰り返し出現することを知らせています。一方、統制群(Ctrl.)では知らせていません。両方の群で、3回目の再生率が落ちていることがわかります。

4回目以降の成績が気になる人もいると思うので、私の実験ではやっていませんが、複数の先行研究をまとめてグラフにしたものが次の図です。3回目か4回目で成績が下降したあとは、成績が復帰して上昇しています。

こんな実験をしながら、「記憶は一筋縄ではいかないな。それがおもしろい」と感じていました。

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