4-お勧めの本

【本】心理学の本4冊

木曜日はお勧めの本を紹介しています。今回は2017年1月〜4月に取り上げた心理学の本4冊を再録します。
スタノヴィッチ『心理学をまじめに考える方法』
ダックワース『やり抜く力 GRIT』
ハイト『社会はなぜ左と右にわかれるのか 対立を超えるための道徳心理学』
小林隆児・西研編著『人間科学におけるエヴィデンスとは何か』 

キース・E・スタノヴィッチ『心理学をまじめに考える方法』(誠信書房, 2016)

■要約

マスメディアから伝えられる「心理学的な知識」は大部分が幻想であり、自己啓発書としても売られる「心理学の本」の大部分は心理学者が書いたものではない。それらは「レシピ的知識」として使い方を表面的になぞるだけであり、「仕組みの知識」ではない。そうしたものに踊らされないために、実証的アプローチと批判的思考力をつけよう。

■ハイライト

科学の本質とは、「人前で失敗を犯すこと、すなわち他の人から修正を手伝ってもらうことを期待して、皆に見えるように失敗すること」(Dennett, 1995)。

「一つの仮説を正しいとする確信の強さは、それが本当に正しいかどうかには関係ない」(Medawar, 1979)

本質主義者は言葉の意味についての議論を好み、操作主義者は概念を観察可能な事象に関連づける。【感想】ここはまず科学をしようとする人のスタート地点。意味について深追いするのはいいが、それは個人的思索に留める方がいい。

ペーパーバックが並ぶ書店やトーク番組は、著者の臨床体験に基づく心理学理論であふれています。このような方法で紹介されるセラピーの多くは、それを受けて改善した、あるいは治ったと思い込んでいる人たちの支持証言に基づいているにすぎないのです。【感想】わたしたちは個人的体験に動かされやすいし、信じ込みやすい。しかし、社会全体で見るとそれは危うい。

読書が苦手な人は眼球運動が安定していないという事実から、眼球運動トレーニングプログラムが開発され、小学生に実施された。しかし、これは因果が逆であり、読解能力が低いから眼球運動が安定しないということだ。単語認識や理解の仕方を教えたら、眼球運動は安定した。【感想】こうした因果の取り違えは専門家でもやってしまう。

人々の行動についての「直観理論」あるいは「素朴概念」は、「地球は平らだ」という信念に近い。たとえば、
・チックを抑制するとリバウンドする→有意差なし
・野球の打席に立つ前にバットにウエイトリングをつけて素振りをするとその後打率が上がる→有意差なし。むしろ腕に負担を与える。
・多肢選択式では最初の答えを変えない方が良い→違う。
・祈ると健康に良い影響がある→ない。

交互作用の考え方を習得することは重要。ストレス要因A、ストレス要因B、それぞれが子供のリスクに与える影響が単独では軽微であっても、AとBが同時に起こるときリスクがその加算よりも大きくなるとき、交互作用が起きている。遺伝と環境の問題もこの観点から見れば、遺伝要因、環境要因単独ではリスクにならなくても、両者が同時に起こればリスクが高まるということになる。しかし、人は「単一の原因」で説明したがるものである。したがってあらゆる議論は単純化される。複雑な説明の仕方は破棄される。

■感想

こうして見ると、私たちがいかに見かけの相関によって「迷信」を信じ込んでいるか、確率的な考え方を取らずに、わずかな「体験」で物事を決めているかがわかる。しかし、そうした能力の限界を知っているといないとでは、何を決めるのでも変わってくるだろう。何よりも私たちの判断力に限界があるのだということだけは心に留めておける。

最後に出てくる「マネー・ボール」の話もいい。野球選手をスカウトするときに「統計的判断」(出塁率などのデータ)ではなくて「臨床的判断」(目に見える身体的特徴)で見てしまいがちのだ。

教育の話にずらせば、学生を評価するときに、臨床的判断(見かけ、積極性、やる気、しゃべり方)ではなくて「統計的判断」(レポートの質、議論の正確さ、他者への援助行動)を使うべきなのだ。

アンジェラ・ダックワース『やり抜く力 GRIT』(ダイヤモンド社, 2016)

■要約

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