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【アドラー教科書】(16) 自己受容、所属、信頼、貢献の感覚

2024年7月23日(火)

火曜日は『アドラー心理学の教科書』の記事を連載しています。ここまでの内容は次のとおりです。
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1. 導入:よく生きるための科学
1.1 アドラー心理学はどういう科学か

 (1) 生きることを全体として捉えるための科学

 (2) 個人全体として動いている
 (3) 「勇気」を持って行動している
 (4) 「勇気」についての質疑応答
 (5) 「所属」を求めている
 (6) 「所属」についての質疑応答
 (7) 共同体感覚を育てる

1.1 アドラー心理学はどういう科学か

(8) 自己受容、所属、信頼、貢献の感覚

共同体感覚は自己への関心(Self interest)から他者への関心への拡張ということです。自分を中心として世界を見るのではなく、自分を含めた共同体を中心として見ることです。

私たちはみな自己への関心を持っています。「これは私にとって得だろうか、損だろうか」「この相手は私にとって味方だろうか、敵だろうか」このように自分にとってどうなのかということをまず判断します。これは自然なことです。なぜなら自分に関心を持つことは自分が生き延びるために必要なことだからです。

しかし、人間が成長し、自立していくにしたがって、他者への関心を持つようになります。なぜなら私たちは全員、社会という共同体に埋め込まれているからです。その共同体を離れては生きていくことができません。したがって必然的に他者に関心を持たざるを得ません。社会のメンバー全員が、他のメンバーに関心を持つことによって、社会を維持していこうとするのです。

まれに「私は別! (Not me!)」という人がいます。自分は特別な存在であって、まわりの人はその人に奉仕するべきであると考えている人です。人は対等であり、協力していくことによって社会が維持されていくという考え方ができない人は「社会病質者 (Sociopath)」と呼ばれます。反社会的な行動をする人です。

人はまず生き延びるために自分のことに関心を持たなければなりません。自分はどのようにふるまえば、他の人から関心を持ってもらえるか、助けを得られるか、評価してもらえるか、ということを考えなければ自分は生き延びることができません。

そのようにしてだんだんと自分はこれでやっていけそうだという自信が持てます。自立できるということです。自立できるという自信が持てるようになると、これまで自己にむけてきた関心を他者に振り向けることができるようになります。これが共同体感覚です。これまで自分を中心として世界を見てきた見方を、自分を含めた共同体を中心としてみるようになることです。

このように自己への関心は本能的に各人に備わっています。しかし、他者への関心は本能的なものではないので、意識的に育成する必要があります。これがアドラー心理学の思想の部分です。共同体感覚を育成しそこなって、未熟である人は、自分の行動の結末や影響を予測せずに、自分の利益だけしか目に入りません。対して、共同体感覚が発達している人は、自分の利益だけではなく、自分の行動がより大きな共同体のためにもなるように行動することができます。

このように共同体感覚を発達させた人には、自己受容、所属、信頼、貢献の感覚を持っています。自己受容とは、自分を受け入れることで、ありのままの自分でいられる感覚です。所属とは、共同体の中に自分の居場所があり、まわりの人から受け入れられ、そこにいていいんだという感覚です。信頼とは、自分で全てを引き受けるのではなく、まわりの人たちに任せることができるという感覚です。貢献とは、自分の能力を使ってまわりの人たちの役に立てるという感覚です。

これを下の図のように配置してみます。下半分の自己受容と貢献は「私とその能力」に関わるものです。上半分の所属と信頼は「まわりの人々との関係性」に関わるものです。左半分の自己受容と所属は受動的な感覚です。対して、右半分の信頼と貢献は能動的な感覚です。自己受容→所属→信頼→貢献のようにサイクル的に発展していきます。

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