4-お勧めの本

【本】K. J. ガーゲン『あなたへの社会構成主義』、『社会構成主義の理論と実践』:社会構成主義にどっぷり浸かるために

木曜日はお勧めの本を紹介しています。

前回はK. J. ガーゲン・M. J. ガーゲン『現実はいつも対話から生まれる:社会構成主義入門』(ディスガヴァー・トゥエンティワン, 2018)を取り上げました。

今回はそれに関連して、ガーゲンの本を2冊紹介します。紹介文は過去の私のブログからのものです。2000年代の私はガーゲンの社会構成主義に強く影響されていました。

K. J. ガーゲン『あなたへの社会構成主義』(ナカニシヤ出版, 2004)

Invitationというタイトルどおり、どのようにして社会構成主義という考え方に至ったかを、哲学や科学論、心理療法、教育、メディア論といった広いスコープから、ガーゲン先生がやさしく解説してくれる。自省と対話にこそ、キーがあると主張するガーゲン先生は、そのとおり、各章の終わりに「本章をふり返って」という一節を設けて、読者との対話を試みている。

私は学部学生の頃、「科学的な」心理学のトレーニング---実証的方法論、厳密な測定、統計的分析を用いることによって、心の機能に関する真実に接近できるという期待にもとづいた心理学におけるトレーニング---を受けました。大学院のゼミや研究実践では、「いかに知識を確立するか」ということが最も重視されていました。私は一生懸命学び、実験室という限られた場の中から、学術雑誌に受け入れられるような、明白で注目せざるをえない「事実」を作り出すテクニックを修得しました。……私はもはや、このような研究をすることはないでしょう。だからといって、そうした研究が完全になくなってしまうことを望んでいるわけではありません。もちろん、「真理」や「客観性」を装うことは絶対に避けるべきだと思います。また、伝統的な科学者が最終的な結論を手にしようとするのに対して、私は対話の大切さをより強調します。しかし、何よりも大事だと思うのは、「真理を確立する」ことを目的としない研究のもつ価値や可能性について、もっと議論していくことです。
彼を「病気」とみなすことによって、「治療」という実践が登場するのであって、もし、彼が病気と定義されなければ、治療以外の実践が動き始めるはずです。このような医学モデルは、セラピーやカウンセリングの大部分に浸透しています。……社会構成主義は、医学モデルに立つこのようなセラピーへのアプローチに対して、真正面から挑戦します。なぜ、クライアントは、「問題を抱えている」とみなされなければならないのでしょうか。他にもっとよい道はないのでしょうか。また、それぞれのセラピストは、どういう根拠にもとづいて、「この理解のしかたの方が優れている」などと主張するのでしょうか。
教育研究者ブラッフェは、教室における教師の「モノローグ」という権威的な声をできる限り小さくし、「唯一の正しい答え」をあまり重視しない教育実践を、積極的に行っています。例えば、彼の英文学の授業では「コンセンサス・グループ」が取り入れられています。この授業では、さまざまなテキストからの質問---生徒に、その分野の定説に挑戦させるような質問---に対して、自分なりのやり方で答えなさいという課題が、グループごとに与えられます。ただし、その際、グループの中で合意に達しなければなりません。各グループは、考えをまとめていく時に、時には極端な反対意見にどう対処するかを考えていかなければならないのです。ブラッフェがいうように、「グループ全体が『一応納得できる』ような点に達しなければならないため、生徒は、学問において最も高度でやっかいな問題の中に放り込まれる」ことになるのです。
社会構成主義は、明確な進歩がみられないという理由であまり評価されない学問分野や実践に関する正しい理解を、私たちにもたらしてくれます。例えば、セラピーやヴィジュアル・アートは、累積的なものではないとされ、「自然」科学の従属的な役割しか与えられないことがよくあります。セラピーや芸術などの領域では、スタイルや流行の移り変わりがあるだけで、それは上昇(垂直方向)ではなく、同じ地平での異動(水平方向)にすぎないというわけです。しかし、垂直方向に---科学的な理解の進歩---進んでいかなければならないという主張には、何の根拠もありません。アリストテレスの物理学からニュートン力学へ、そして原子物理学へという流れによって、私たちは、よりいっそう「真実」に接近したのではありません。ただ、ある意味の領域から別の領域へと移動しただけです。……セラピーの流派や芸術のスタイルが常に変化するのは、決して否定的に捉えられるようなことではないはずです。それぞれのセラピーや芸術は、文化に、ある選択肢---生活形式、関係を動かす可能性---をもたらしてくれます。そして、この選択肢は、多くの人々にとって、はかりしれない力を与えてくれるものなのです。

K. J. ガーゲン『社会構成主義の理論と実践』

『あなたへの社会構成主義』を読み終えてから、すぐにこの本を読み始めたのだけれども、読み終えるまでにかなりの日数が必要だった。それは難解だからというのではなく、400ページを超える大著なのに、密度が濃く、どこを読んでも惹きつけられるものがあるので、なかなかページが進まなかったからだ。読み飛ばしを許さない迫力があるということだな。

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