4-お勧めの本

【本】ハラリ『サピエンス全史(上・下)』/大島純・益川弘如編著『学びのデザイン:学習科学』

木曜日はお勧めの本を紹介しています。今回は2017年4月〜5月に取り上げた本を再録します。

ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史(上)』:文脈を飛び移るジェットコースターの感覚

■要約

人類は、7万年前に虚構の言語を獲得したことによって認知革命を起こし、伝説や神話などの架空のことについて語る能力を得た。虚構のおかげで集団でそれを信じ、そのことによって集団で協力する力を得た。1万年前に農業革命が起こる前の長い時代は、狩猟採集民として暮らしていた。人類の社会的・心理的特徴は、狩猟採集民の時代に形成された。小麦、稲、ジャガイモなどの農耕は定住化を促し、人類が逆に家畜化されたともいえる。農業革命以降、神話と虚構のおかげで特定の規則を守ることを習慣づけられた人類は、人工的な本能を身につけ、知らない人同士が効果的に協力できるようになった。これを文化という。

■感想

この本が面白く、すみずみまで読んでしまうのは、長大な時間軸を飛び回って自分とこの世界を見直すことができるからだろう。まさに「文脈を飛び移る」感覚がジェットコースターに乗っているような興奮を引き起こす。

7万年前の認知革命では、虚構のことを語る言語を獲得したことが原因となっている。これには「噂話」説と「川の近くにライオンがいる」説がある。噂話や陰口というのは、誰が信頼できるかという情報を伝えることによって、大人数による協力を可能にするための条件であった。現代に至るまで、人間が噂話が相変わらず好きなのはこのためだ。ちなみに噂話でまとまる集団の上限は150人である。

狩猟採集民の時代は、個々の知識と技能の点では歴史上最も優れていた。植物の成長パターンや動物の習性、縄張りの地図などを頭に入れておく必要があったからだ。農業や工業が始まると、他者の技能に頼って生きれる「愚か者のニッチ」が拓けた。

農耕民になってからは、人類は畑のそばに定住しなければならなかった。それは厳しい労働と土地を守るための戦いを意味したが、すでに狩猟採集民の暮らしを人類全体が忘れてしまっていた。

自由や幸福は、人間の想像の中にしか存在しない。人が平等であるというような「想像上の秩序」は、それが正しいからではなく、それを信じれば効果的に協力して、より良い社会を作り出せるからだ。こうした想像上の秩序は私たちの欲望を形作る。たとえば、たくさんの経験をして自分の潜在能力を発揮しようとする「ロマン主義」。幸せになるためにできるだけたくさんの消費をしなくてはならないと考える「消費主義」。こうした共同主観的なものが個人の意識を結ぶコミュニケーション・ネットワークの中に存在する。

ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史(下)』:そして現代の私個人の生き方について示唆を与えてくれる。

■要約

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