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2023.7.26論文短評:「スポーツを通じた人々のつながり」論に関わる3本

 標題の通り、今回は最近まとめて読んだ「スポーツを通じた人々のつながり」論-他に良い表現を模索中-に関連する英語論文を三つ紹介。

(1)
論文名:The role of sport-based social networks in the management of long-term health conditions: Insights from the World Transplant Games
著者:Gareth Wiltshire, Nicola J Clarke, Cassandra Phoenix and Carl Bescoby
掲載誌:International Review for the Sociology of Sport, 57(2): 256-272, 2022
DOI: https://doi.org/10.1177/1012690220979202

(2)
論文名:From fanzines to foodbanks: Football fan activism in the age of anti-politics
著者:Danny Fitzpatrick and Paddy Hoey
掲載誌:International Review for the Sociology of Sport, 57(8): 1234-1252, 2022
DOI: https://doi.org/10.1177/10126902221077188

(3)
論文名:Fight the biopower! Mixed martial arts as resistance
著者:Jack Thomas Sugden
掲載誌:International Review for the Sociology of Sport, 57(6): 879-898, 2022
DOI: https://doi.org/10.1177/10126902211039772

 スポーツ社会学の国際誌としてよく知られるInternational Review for the Sociology of Sportの最近の論文を漁っていて気になったのをピックアップ。いずれもイギリスの事例ということで、その辺りは文脈として考慮すべきにしても、立て続けにスポーツを通じたつながり(集団)-それはcommunityとかnetworkとかbondとか様々な表現をされるのだが-が一つの主要な関心となっているのは興味深い。

 (1)はtransplant recipients(移植患者)たちが参加するWorld Transplant Gamesとそこでのつながりが患者たちの健康管理に与える作用がテーマになっている。(2)はイギリスのサッカーファンによるアクティヴィズムの変化が主題となっており、特にwithinからthroughという枠組みで、サッカーファンの抵抗の運動が自身がつながりを感じているクラブそのもののあり方に向かうだけでなく、より広くイギリス社会全体のあり方に向かうという変化の軌跡が辿られる。(3)は総合格闘技のジムを民族誌的調査の舞台としつつ、そこにおける身体的な社会性(carnal sociality)を通じたつながりが、ネオリベ的社会が個人に与える種々の権力作用に対してどんな抵抗点となり得るかを考察する。

 いずれにしても、三つの論文に共通する関心は、スポーツ(広く行って身体活動)を伴うつながりの場が、現在の医療や政治とそこにおける人間の個体化に対して、どんな別の主体の在り様を生み出す契機を持ち得るかという点に踏み入ろうとしている点だろう。どれも興味深く読んだ。

以前書いた論文で取り上げた、1960年代アメリカ西海岸のスピリチュアルムーブメントとそこで生まれていた様々なコミュニティとの差異を検討してみると面白そうだし、社会に溢れる言葉だけのスポーツつながり論を批判的に検討する上でも、今回の三つの論文から学ぶことは多かった。

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