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つくる たのしい うれしい

ぼくは絵が描けないデザイナーだった。

正確に言えば、プロになる前の話だから『絵が描けないデザイナー志望の学生』なのだけど、ホントに下手だった。学校の演習では、さまざまな課題が出る。鉛筆を使ったデッサン。アクリルガッシュを使った平面構成。エアブラシを使った写実スケッチ。マーカーを使ったレンダリング。

上手い人は何で描いても上手い、という訳でもない。マーカーが得意な人もいれば、ガッシュの人もいる。ぼくはどの道具も使っても下手だった。

今はデザインの領域が広がり、絵が上手いことはデザイナーの必須スキルではない。でも当時、ちょうどバブル経済がはじけた頃は、デザイナーは絵が描けることが当然だった。なぜなら、頭で思い描いたアイデアを伝えることがデザイナーの最初の仕事だから。

美しい猫が出てくるポスターをつくりたかったら、誰が見ても美しい猫を描く必要がある。ピカピカに光るゴールドのアクセサリーのデザインがしたければ第三者にゴールドの質感が伝わる絵を描かなければいけない。

学校のみんなは、それができた。
ぼくは、それができなかった。

だから就職先を考え始めた大学3年生の頃は、ぼくはデザイナーになる気がなかった。というより、なれる気がしなかった。

4年生になると専門性を高める為、研究室に所属する。ぼくが入ったところは、一人一台PCを持っている進んだ研究室だった。まだノートPCなんて一般的ではないころ。モニター表示も3万2千色まで。ハードディスクの容量は250MB(ギガじゃなくてメガ)でMacOSが6とか7でMacintoshのリンゴマークも虹色の時代。

そこで、ぼくは魔法と出会った

Adobe Photoshop2.0だ。

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引用元:The Evolution Of Photoshop: 25 Years In The Making

先輩が画面上に作品を描いていく。ブラシツールがマウスの動きに連動し、キレイなエアブラシの軌跡が画面上に浮かび上がる。写真の上にテキストを重ね自由に何度も色を試すことができる。カラー写真も一瞬でセピア調の古びたものになる。

PCでデザインできるんだ!

今まで見たどんな手品より驚いた。初めてファミコンを見たときよりも興奮した。これだ!と直感的に思った。

先輩がいない間にPCを借りる、 Photoshopの基本操作は直感的で分かりやすい。気に入った線が描けなければやりなおせばいい。紙にのせた絵の具と違い、 Photoshopの絵筆は描き直しができる。 command + Zはまさに魔法の呪文だ。

ぼくとPhotoshopは相性が良かった。Photoshop(特にIllustrator)を使いこなす上で関門となるベジェ曲線の描き方もすぐ覚えた。頭に思い浮かんだ線を描ける快感を初めて知った。

鉛筆も筆もマーカーも、エアブラシもパステルも苦手だった。唯一得意にできたのがPhotoshop。頭で思い描いたアイデアを伝える最強の相棒。ぼくがデザイナーになるきっかけをくれたのがPhotoshopだ。

Photoshopは、noteの世界も広げてくれた。

それまでエッセイしか投稿してなかったぼくが、トップ画用に描いていたアイデアが膨らんで、画像作品を投稿しようと思った。投稿直後から大きなリアクションをもらった。noteでの交流がグンっと広がった。
嬉しかった。

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noteアイコンの食パンは、ぼくのnoteのシンボルみたいな思い入れが強いもの。今回はその制作過程を簡単にだけど公開したい。


1.  元画像はフリー画像のサイトからDLしたもの。

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2.  まずはnoteアイコンを重ねあたりをつける。

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3.  よけいな部分をスタンプツール(領域コピーみたいなもの)でパンを消していく。パンの上に皿の質感を移植するイメージ。

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4.  たまにnoteアイコンをのせて、どこまで消すかをチェック。

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5.  最終的にここまで消した。ここまでで、全工程の7割以上の時間をかけている。草むらのバッタみたいにごちゃごちゃした背景から対象を消すのはボタン一つで出来るようになったけど、均質かつ微妙な陰影がある部分を消す作業は未だに地道な作業が必要。でも、あと数年したらAIの力で一瞬でできるかもしれない。

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6.  元画像からマグネット選択ツールで食パンのカタチを切り抜く。複雑な切り抜きは、昔だったらペンツールでチマチマ作業するしかなかった。今はツールが大幅に進化したので、大雑把に境界をなぞるだけでOK!

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7.  食パンの切り抜きが完成 ☆

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8.  透過したnoteアイコンに合わせて食パンのカタチを整える

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9.  斜め右上をスパっと切り取って…

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10.  焦げ目をつけ、自然に見えるように焼きムラやエッジにボカシを入れて完成! 最後の仕上げをしている時間が一番たのしい。「あ~、ちょった焼きすぎたな。逆に耳の部分はもっとカリッとさせるかぁ」ブツブツ言いながら作業をするぼくの顔は、きっと笑っているはずだ。

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つくることは、ときに苦しい。
アイデアが思い浮かばず締切が近づくと胃が痛くなる。手塩にかけたデザイン案が却下されたときは、なんともいえない虚無感に包まれる。
でも、やめられない。苦しさの中にも楽しさがある。どんなに苦しくても、つくりあげたときに、達成感は必ずある。そして、つくったものが誰かに届いたときはメチャクチャ嬉しい。

1990年にPhotoshop 1.0がリリースされたから、今年は生誕30年ということになる。ほぼそれに近い年月をぼくはPhotoshopと共に過ごしてきた。妻よりも長い付き合いだ。

つくるのはたのしい
それを教えてくれたPhotoshopとの付き合いはまだまだ続く。

いつかデザイナーを引退し家でのんびり過ごすとしても、ぼくはつくりつづけると思う。

たのしいは  やめられない





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