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あなたの知らないデザイナーの世界②

前回の要約
デザイナーの仕事は絵を描くだけでなく、多岐にわたる。近年増加している依頼が「未来洞察の仕事」。データを分析し将来のユーザー心理や社会情勢を予測し、クライアントの潜在課題の解決を目指す、新しいカタチのデザイナーの仕事です。


前回、未来洞察には7つのステップがあることを書きましたが、今回は各ステップを詳細に見ていきたいと思います。

① プロジェクト定義
まず初めに、クライアントが未来予測の仕事を依頼した理由と目的を明確にします。一番大事なのは、何年後の未来を描くかを決めることです。5年と10年では未来は大きく変わるし、想定課題も別物になります。ここをふわっとした状態で依頼されるクライアントはとても多いです。対話を重ね、期待する成果物や結果のイメージを合わせていきます。ここでプロジェクトの成否が決まると言ってもいい大事なステップです。1ヵ月かけて行うことも珍しくありません。

② 情報収集
次に様々な視点で情報を集めます。デスクリサーチでは文献や統計を、フィールドリサーチではユーザーの生の声を収集します。専門家へのインタビューや最新技術動向の調査など、未来を予測するためにどれだけ豊富なデータを集められるかが大事です。デスクリサーチでは、数百、ときには千件以上の文献を集めます。

ユーザーや専門家へのインタビューは新しい発見に出会える楽しいプロセスです。特に専門家インタビューでは、こんなマニアックな人がいるんだ!?と驚くような方に出会えます。前回紹介したデザインリサーチャーという職種は、インタビューが上手な人が多いですね。雑談の中から話しを膨らませて、自然に聞きたいことを引き出したりします。話し好きで好奇心旺盛な人はデザインリサーチャーに向いてると思います。

③トレンド分析
収集した情報を整理し、パターンや傾向を見出します。多くの国や地域で起きているマクロトレンドを掴むことも大事ですが、局所的だけど将来大きな影響を与えそうな小さなことに着目することも重要です。各要因をグルーピングしてその関係性を言語化したり、将来のトレンドとなりうる価値観を造語で表現したりと言葉と向き合うことが多いステップです。ここで創造力を刺激するいいキーワードが出せると、次のシナリオ作成がスムーズになります。

情報収集、トレンド分析は作業量が膨大なので4、5名のチームを組んで取り組むことが多いです


④シナリオ作成

 分析結果を基に、複数の未来シナリオを考えます。最も可能性の高いものから極端なものまで、3〜4つのシナリオを考えます。シナリオの形式は様々ですが、目を引くタイトルと500字程度の文章で構成されることが多いです。

文章の形式もレポート形式から物語風まで、プロジェクトごとに最適な形を検討します。SF小説っぽく書くこともあるんですよ。SFプロトタイピングと呼ばれる手法ですが、分析から得た情報を基に、登場人物のキャラ設定や人間関係を考え物語を作っていきます。ぼくのシナリオ作成は上手だと言ってもらえることがあるのですが、それはnoteで文章を書いているおかげかもしれませんね。

滅多にありませんが、プロの作家さんにお願いするときもあります。そんな時は、デザイナーが編集者の立場になって作家さんにリクエストするんです。「このキャラはもっと情熱的に動かしてください」なんてコメントを書いたりするときもあります。

⑤ アイデアづくり、⑥ プロトタイプ制作、⑦ 戦略立案  
このステップは一般的に想像されるデザイナーの仕事に近いです。アイデアづくりでは、文字も書きますが絵も描きます。描き込んだアートワークもあれば、ポンチ絵と呼ばれるメモ用紙の裏に描いた落書きみたいなものもあります。とても楽しいステップですが、見る人に「ありえそうな未来だな」と思わせるのが難しい。アイデアが斬新すぎても絵に描いた餅になってしまうし、現実的すぎては未来感がなくなります。

プロトタイプとは、アイデアを疑似的に体感してもらうものの総称です。未来のWEBページや製品のモックアップを作って、クライアントに少し先の未来を体感してもらいます。疑似的にというのがポイントです。未来の技術はまだ世の中にありませんからね。AI関連のプロジェクトでバックヤードに隠れたデザイナーが音声で受け答えするというプロトタイプを作ったことがあります。「まるで人間みたいだねぇ」とコメントもらったときは一同笑いを堪えるのに必死でした(あとでネタばらしはしましたが)。

最後の戦略立案は、プロジェクトの集大成になります。このステップをまとめあげるには高度なスキルが必要です。ビジネス戦略とデザイン戦略を統合し、クライアントの目標達成にむけた具体的な戦略を提示しなくてはいけません。このプロセスを専門領域にする人をデザインストラテジストと呼びます。MBAを持っていたり、ビジネスリテラシーが高い論理的な人が多いです。クライアントとのやり取りが多く、意思決定をリーディングする立場なのでコミュニケーション能力と統率力が求められます。そのせいか、自分の周りのデザインストラテジストは、部長や生徒会長経験者が多いんですよね。

今回は「絵を描かないデザイナーの仕事」ということで未来洞察をテーマに書いてみました。思い起こすと、一般の人には知られていないデザイナーの側面ってたくさんあるかもしれませんね。「あなたの知らないデザイナーの世界」、機会があればまた書きたいと思います。

「未来のデザインオフィス」というキーワードで画像生成したスケッチ。空間プロジェクターの技術が進化したら、こんなオフィスができるかも!?



カミーノさん企画の参加2作目です。2千字以内というのが規定なので、書き出したら軽く3000字オーバー。圧縮しようかと思ったのですが、端折ると箇条書きの説明文みたくなっちゃうので2本に分けました。noteは5年以上やってますが、連作は初めてな気がしますね。新しいチャレンジのきっかけを作ってくださったカミーノさんに感謝!です。



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