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背は口ほどに物を言う

「目は口ほどに物を言う」とは言うけれど、表情と同じで仕草や姿勢にも気持ちはあらわれるもの。そのことに改めて気づかされたこの1年、長男の高校受験が無事に終わった。

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志望順位はともかく、本人が納得できる学校に合格し、親としてはホっと一息。受験が終わり、気が緩みきった長男はリビングのカーペットの上でゴロゴロし、ちくわペットの犬と戯れスマホをいじる毎日。

大好きなゲームをする時間を削ってまでも、スマホに向き合う長男。それには理由があって。3年生の1学期に同じ班になったのがきっかけで、仲良くなった友達とのグループLINEで盛り上がってるらしい。

しかも、男子2人、女子4人という夢のグループ構成。なにそのアオハル設定!?  そんなのマンガでしか見たことない。控えめに言っても、羨ましいという言葉しか思い浮かばない。

12月から、起きてる時間を勉強に全フリした長男が、一日30分だけと決めた自由時間。その貴重な時間すべてを、LINEに使っていたのも頷ける仲の良さ。勉強が終わり、楽しそうにスマホを見る長男の表情は、親には決して見せないリラックスした笑顔。そんな友達ができて良かったね、とぼくの目もほころんでしまう。

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3年前、長男は中学受験をしたが不合格で、地元の公立校に通うことになった。同じ小学校出身のお友達が数人しかいなくて、1年生の1学期は長男から友達の話を聞くこともなかった。部活にも入らず、学校に行って帰ってくるを繰り返す毎日に心配がつのる。

2学期が始まり、夏の暑さも落ち着いた9月末の頃だったと思う。いつもの下校時間を一時間以上過ぎても長男が帰ってこないと家にいる妻からLINEが入った。学校に電話をするか? いやいやもう小学生じゃないんだし、というやり取りをしてるうちに長男が帰ってきたらしい。

お友達としゃべりながら帰ってきたんだって
.既読
どんだけゆっくり歩いてんだか😊
.既読

口調とは裏腹な笑顔の絵文字。ぼくも同じ笑顔をスタンプで返した。マイペースな長男らしく友だちづくりもゆっくりだったが、気の置けないクラスメートも増えていったみたい。二年生になってマスクなしでは友だちと会えなくなったけど、長男の14歳の思い出の多くが学校生活の中にあると思う。

そして三年生、受験の年。11月まで勉強に集中できなかった長男の姿勢が、12月に入ってあからさまに変わった。大好きなカレーを食べるときは背筋を伸ばし、苦手な切り干し大根の前では猫背になる分かりやすい長男。

その長男が、背筋をピンと伸ばして勉強に集中する姿は、何度見ても頼もしくて。写真に撮っておけばよかったと今さらながら後悔している。

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受験日直前になっても、日に一度のグループLINEの会話は続いていた。受験まっただ中のバレンタインの日なんて、学校近くの公園に集合して友チョコを交換しあったそうだ。ずいぶん呑気だなぁと思ったり。励ましあえる友だちがいてくれてありがたい気持ちと、僅かな嫉妬心が中学3年間一枚もチョコをもらえなかったぼくの胸に湧き上がった。

みんなの受験が終わったあとは、LINEをする間に息をしてるんじゃないかと思うほど、スマホにかじりついて、楽しそうにトークやゲームをする長男。

先週なんて「日曜日にみんなで映画を見に行くから、予習の為に○○ちゃんにマンガ借りてくる」と出かけていった。再びアオハルマウントを取られたぼくは、地団駄を踏みながら見送るしかなかった。

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そんなふうに、残りわずかな中学生活を満喫している長男の姿勢が、久しぶりにピシっとした瞬間があった。

リビングで家族4人でテレビを見ていたら、「あっ、そうだ」とつぶやいて、やおら長男が宿題をやりだした。足をぶらぶらさせながら、ときおり天井を見あげて考え込んでいる。しばらくすると、なにやら書きものを始めた様子。すっと伸びた背筋は、長男が集中してる証拠。久しぶりに見るその姿に「なんの宿題してんの?」と聞いてみた。

「卒業文集の原稿書いてる」

長男のそのひとことが嬉しくて、ぼくはその姿を目に焼きつけた。三年間の中学生活を振り返る卒業文集。長男にとってそれは、姿勢を正して書きたいものなんだ。長男にとって、中学生活は大切な時間だったんだ。そうじゃなかったら猫背で面倒くさそうに書くはずだから。

親なんて単純なもので。どんな学校に行こうとも、そこで大切な友だちができたなら、この学校で良かったねと思うもの。

「不合格だった中学校と、いま通ってる中学校。3年前に戻って、どちらも選べるとしたらどうする?」

そんな意地悪で答が分かってる質問をしたくなるほどに、卒業文集を書く長男の後ろ姿は、頼もしく輝いていた。

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そこが大切な場所になるかは、行くまでは誰にも分からなくて、どうなるかは本人次第。新しく4月から通う学校も、長男にとって大切な場所になって欲しいと思う。そしていつの日か、「この学校で良かった」という長男の言葉が聞けたら嬉しい。子どもから言われるそのひとことは、親にとってかけがえのない合格証書になるから。


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