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デザインに寄せて

デザインをしているとき、「あっ、残るな」と思うことがあります。MoMAのパーマネントコレクションに選ばれて後世に残るとか、そんな大それたものじゃなくて。もっと、小さくてささやかな感情です。

それは、自分のこころに残るデザインです。

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寄せ文庫という企画で、編集スタッフとして文庫本の装丁デザインを担当しました。ヤギでおなじみの、ふみぐらさん。参加者が、ふみぐらさんのイチオシ作品に感想文を添えて文庫化し、ふみぐらさんに届ける企画です。

デザインを始めるとき、最初の一歩が難しい。デザインの方向性を決めるコンセプトづくりが一番の難所なのですが、今回はスムーズでした。ふみぐらさんのnoteプロフィールが、デザインコンセプトそのものだったからです。

人とことばと土を耕して生きてます

人、ことば、土

この3つのキーワードを軸にデザインをスタートしました。デザインの考えるステップは、料理に例えられることがままあります。今回は、スープ作りに例えると分かりやすいかもしれません。

じっくり出汁をとって、味付けして、隠し味で全体を整える。数式的に表すとこんな感じです。

出汁(テーマ)× 味付け(テイスト)+ 隠し味(物語)

デザインを考える上でテーマは、とても重要です。出汁をとるようにコトコトじっくり時間をかけて練り上げていきます。ふみぐらさんの作品に出会ってから2年以上。出汁とりの時間としては、十二分。「人、ことば、土」、この3つのキーワードをテーマにするのに迷いはなかったです。もう、これしかない! という感じでした。

では、テイストを何にするか……。今回は、ふみぐらさんのイメージからアイデアを膨らませました。唐突ですが、ふみぐらさんって武士っぽくないですか? 独特の文章リズム、豊富な語彙、アイコンの遠くをみやる横顔。キリっとした武士のイメージです。ほら、ときどき「美味しいでごわす」とか言うし。

2回だけお会いしたことがありますが、実際のふみぐらさんはとても柔らかな方で。武士というよりは、すっかり定着したヤギのイメージに近いんですよね。ただ、今回の装丁は少し堅いイメージの、文豪感があるデザインにしたかったんです。なので武士のイメージを膨らませていきました(魅力的なヤギは挿絵でたくさん出てきますしね)。

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浮世絵、江戸切子、染付・・・
武士から江戸時代に世界観を発展させ、「人、ことば、土」に合うテイストを考えて考えて考えて。最初に思いついたのが家紋です。

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「ことば」は、文章の「文」に置き換えました。このデザインも好きですが、文字がハッキリ見えすぎるのが気になりました。「文」を丸で囲むと学校の地図記号みたいだし……。もっと色々なテイストを検討したいな、と思っていたのがこの段階です。

図と地をもっと馴染ませると上手くまとまるかも…… と思いました。なので、家紋から離れ。文字として認識できるギリギリのラインを狙って描いたのがこのデザインです。

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丸から四角にして図と地の馴染みも良くなりました。このままでもデザインとしては成り立ちます。でも、デザインに深みが足りないなと感じていました。もう一歩良くしたい。

そこで大事になってくるのが「隠し味」です。カレーに入れるチョコレートみたく、味わいにググッと奥行きが出る隠し味。それが見つかれば、デザインがもっと良くなるはず……。そう思って、デザインを寝かして、しばらく考えました。

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上のデザインを描きあげた、翌日か翌々日かの夕飯後。皿洗いしてるときに思いついたんですよね、隠し味を。ビル・ゲイツもジェフ・ベゾスも、皿洗いは脳をリラックスさせる効果があると言っていて、必ず自分でお皿を洗うそうです。恐るべし、皿洗い効果!

その隠し味、なんだと思います?
寄せ文庫スタッフにも伝えてなかったけど、今回の企画そのものにヒントがあったんです。それは……

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寄木です。木の色や木目を生かし、様々な木を組み合わせ模様をつくる寄木細工。みんなが思いを寄せて作る、寄せ文庫にぴったりな隠し味(物語)だと思いました。

そして出来上がったのが、このデザインです。

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これはCGなので、このとおりの色味で製本されるとは限りません。これから印刷される本の色味とは、若干ブレが出るのはご承知おきください。

ふみぐらさんの54編の作品に、6人のイラストレーターによる挿絵と58人から寄せられた言葉が添えられた「ふみぐら小品」。中身が気になった方は、下記サラさんのnoteに詳細が書かれているので、ぜひ訪問してみて下さい。




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