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【娯楽の塵】酒の類

アルコール飲料用スチール缶(ビール)
 
推定投棄日 1977年ある日

1977年
200海里時代。襲来。

 嫌なものは受け入れたくない、誰にも奪われたくないものは手出しさせない。人間が創造したものと言えば、この境界という世界ぐらいか。

 人の営みから随分とかけ離れた付属の利益を、どうやって手に入れたものか。我が国の陸。我が国の空。我が国の海。誰かがそれを力ずくで始めた。

 様々な形の力が「従う」という行動をコントロールしている。まるで海の中にいるみたいに「あなたは自由だ」と、ゆらゆらと包まれているようでいてそれは死と隣り合わせだ。

 波に逆らってはいけない。けれど、それは誰が決めたのか。なぜ従えるのか。秩序だけが一隻の船から垂らされた綱のように溺れそうな私たちの目線を釘付けにする。あれを掴んでいなければならない。そうでないと、今まで信じて来た事も、信じる為に犠牲にした事も、間違っていると分かっていて抗えなかった自分への責めも、誰にも見つけてもらえない藻屑となってそれだけが本当の自由を見つけて消えていく。

 想像する。
知らぬ間に海原に放おり出されたようだ。目の前には蟹工船。捕まったらあっという間に真っ暗な缶の中。労働者らしき乗組員と目が合う。私は最後の抵抗とばかりに慣れぬ泳ぎで逃げようとする。腕も足も思うように動かない。海流が邪魔をして同じ場所を漂うのみ。そんな私をその乗組員の男は一瞥し、軽く舌打ちをしたかと思うと船内へと消えていった。時は1977年ある日。私とその蟹工船は200海里のこちらとあちら。気付くと私の手首には、見覚えの有るとも無いとも判別のつかないただ鈍く光って見える綱がしっかりと巻かれていた。


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