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法制審議会 家族法制部会第3回議事録4~小泉参考人ヒアリング

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最初のグループの最後の参考人

それでは,最後になりますけれども,小泉参考人に御説明を頂きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

○小泉参考人 

小泉と申します。それでは,私の方からは家庭裁判所調査官の経験者としてのお話,それから,現在のADR事業者としてのお話としまして,異なる協議ステージでの当事者やお子さんの姿をお伝えしつつ,そういうことを踏まえた私の考えというようなものを少しお話しできればと思っております。よろしくお願いいたします。
 まず,家裁利用者の当事者についてですけれども,離婚全体の10分の1しかいないという点からも御想像が付くと思いますが,やはり当事者間での合意が難しいという紛争性の高い当事者が多いです。また,同居の有無の観点からしましても,家裁利用者のおよそ8割程度が別居をしている反面,今年の3月でしたか,法務省さんの方で実施された離婚当事者向けのアンケートによりますと,離婚前に別居した人の割合が半数以下となっていましたので,そういった意味でも,家裁当事者というのは既に同居での協議が難しいという意味においても,やはり紛争性の高い当事者ということができるかと思います。
 そういった紛争性の高い当事者間の協議についてですが,まず,面会交流については子どもの拒否であるとか子どもの悪影響が主張されるといったような,原則実施を当てはめることが難しいケースがございます。あとは,本来実施が可能なのだけれども,夫婦間の葛藤が非常に高く,親の葛藤の高さゆえに面会交流が難しいケースなども多い印象があります。また,養育費につきましても,算定表がベースにありながらも,双方が大なり小なりの主張を繰り返してなかなか決まらないと,そして面会交流と養育費が相互に悪影響を及ぼして,こちらが決まらないならあちらもごねてやるというような感じで両方決まらないと,長引いているうちに葛藤が更に高まっていくというような,そんなケースが散見されたというところでございます。
 次に,ADRの利用当事者像としまして,当センターのADRを利用される方について少しお話をさせていただきます。当センターは,平成29年12月に法務大臣の認証を取得しまして,現在丸3年と半年程度が経過しております。令和元年と令和2年につきましては,年間120から130件ぐらいの申立て件数がありまして,決して何かを一般化できるような件数ではないですけれども,家裁の利用者とはまた違うステージでの協議をする当事者として御紹介をしたいと思います。
 まず,当事者像についてですが,現在,ADRは認知度が低く,いろいろとネット検索をしているうちにこういう制度にたどり着いたというような方が多いのが現状です。また,家裁の調停よりもある一定の費用が掛かるわけですので,そういった費用を出したとしてもきちんと問題を解決したいというような人たちですので,そういったことを総合しますと,相対的に知識欲があるといいますか,知識が高い方で収入も高い方という方が,平均と比べますと,多いように思います。それから,もう一つ大きな特徴としまして,穏やかな解決を望むという視点があります。皆さん,養育費や面会交流についてはいろいろ,ネットで検索をしたりですとか,弁護士相談に行かれたりということで,ある程度の知識を持っていらっしゃる方がかなり多いように思います。例えば算定表上は幾らというような妥当な金額を知っているのだけれども,ただ,その金額を知っているだけではやはり前に進めずに,それを相手に伝えたところで応じてくれないといったことがよく起こるわけなのです。そうした場合に,今の日本では,弁護士に依頼するとか,それから家裁に申立てをするとかといった選択肢しかないわけですけれども,夫婦だけでは協議ができないけれども,弁護士に依頼したり裁判所で争うことまではしたくないといったような,ある程度穏やかな解決を求める人が多いというのもADR利用者の特徴かと思います。
 そういった当事者像のADRですけれども,お子さんがいる御夫婦の離婚協議においては,ほぼ100%といっていいくらい面会交流と養育費について取決めをします。面会交流につきましては,家裁の協議と大きく異なりまして,もめるケースというのは本当に半数以下,4分の1ぐらいのイメージです。同居親の方も,子どもの生活に支障がない限り,ある程度会ってもらって構わないというような姿勢ですし,別居親の方も,同居親と子どもの生活を想像した上での無理のない主張をされる方が多いように思います。結果として,特にお子さんの年齢が低い場合は,月に複数回会うような面会交流ですとか,宿泊付きの面会交流が認められることも多いです。一方,お子さんの年齢が高い場合,別居親も余り無理をしないといいますか,子どもが会いたいときに会えればいいというスタンスの方もおられます。そして,養育費についてですが,基本的には算定表を参考に決められる方がほとんどですが,特徴としては,私立学校の学費や大学の費用など,いわゆる特別出費の高額な教育費の部分を割と丁寧に決められる方が多いように思います。やはりひとり親家庭になるに当たって一番心配なところなのだろうと思います,高額な教育費ですね,大学に行かせられるのだろうかとか,そういったところが皆さん御心配なのだろうなと思っております。
 また少し違う視点の話になるのですけれども,養育費を取り決める方の9割程度がADRでの合意と同じ内容の公正証書を作成されます。当センターでは公正証書の作成までを行政書士業務として請け負うことがほとんどですので,当事者の方が特にもろもろ手間が掛かったり,別途公証役場に行かなければいけないということはないのですが,やはり余分に費用が掛かるというのが大きなネックです。また,事前のお問合せなんかでも,ADRで養育費を決めた場合,強制執行はできるのですかというようなお問合せも一定数あります。そのため,家族法の議論とは少しそれるのですけれども,ADRで合意した内容についても,一定の条件の下,債務名義化できるということになれば,より一層,子どもの福祉が守られるという結果になるのではないかと考えております。
 続きまして,その他の離婚当事者の実態としまして,いわゆる親プログラム参加者についてお話をしたいと思います。親プログラムにつきましては,こちらにおられる皆様に更に御説明をする必要はないかと思いますので,現在,当センターの主催若しくは自治体との共催という形で実施している実際のプログラムについて,少し御説明をさせていただければと思います。
 当センターでは,「パパとママの離婚講座」という名称で月に1回,オンラインの親プログラムを実施しております。また,昨年は港区と共催で同様の講座を開催しましたし,今年度は豊島区,文京区,目黒区でも同様の講座を月に1回,若しくは2か月に1回のペースで実施予定であります。こういった講座に参加される方の特徴としては,第三者を挟んだ協議までは必要ないかもしれないけれども,一応養育費や面会交流をきちんと取り決めたいとか,離婚前後の子どもの福祉というものに関心があるといったところです。こういった特徴を備えている点におきまして,こういった層の人たちへのアプローチというのはとても大切だと感じています。なぜなら,もろもろの統計にもありますように,養育費や面会交流支援の取決め率が低い大きな理由として,そもそも権利者が求めない,その理由としては相手と関わりたくないというのが非常に多いからです。こういった方々に対しては,取決めを法律で義務化しない限り,任意の取決めを促すのは難しいと考えられます。一方,講座受講者の方々は,きちんと取り決めたいという気持ちを少なからず持っておられますので,打てば響く層と感じているところでございます。そういった層の皆様がどんなことに興味を持って,どんなことを知りたいと感じているかということを,資料で見ていただければと思うのですけれども,二つ御準備させていただきました。
 一つは,当センター主催の講座の受講後アンケートです。もう一つが,港区の受講前アンケートになります。お時間の関係もありますので,それぞれ皆様に見ていただければと思うのですけれども,まず双方のアンケートに共通なのは,やはり離婚時の関心というのは本当に多様で,人それぞれだということなのです。ただ,幾つか特徴的なところがあると感じているので,そこをお話しさせていただきますと,当初この講座を始めるに当たって,メンタルケアみたいなものよりも,離婚条件のような法的な知識を求められる方が多いのではと思っていたのですけれども,意外とメンタルケア的な内容としての,お子さんへの説明とか,そういったことに関心をお持ちの方も一定数おられるのだなと感じました。また,手順とかフローといった言葉が少し見られると思うのですけれども,実際に離婚を進めるに当たって,具体的な手順であるとか,離婚協議の方法を知りたいといったお声も多いように思います。また,これも意外だったのですけれども,講師の体験談であったりとか,ほかの参加者の方との相乗効果的なものもあるので,いろいろなニーズを短時間の講座で網羅するのは非常に難しい面があるのですけれども,法律相談や個別相談とはまた異なる効果があるということをこの講座を通じて実感しているところでございます。
 少し話題を変えまして,親の離婚を経験する子の実態というところで,子どもの意向について少しお話をしたいと思います。
 まず,家裁で実施される子の意向調査についてですが,既にある程度紛争の高まった御夫婦が多いことから,子どもの意向を家裁の段階で聴取したとしても,同居親の意向が色濃く影響していたり,若しくは親の紛争に巻き込まれた結果,お子さんのピュアな意見が聴けないということが多かったりいたします。そのため,家裁調査官が意向の調査を行ったとしても,何か思いもよらなかった子どもの真意が聴けたということは余りなく,想像どおりの発言になることが多いように思います。ただ,だからといって必要でないというわけではなくて,意向調査まで行う案件はやはり葛藤が非常に高いケースですので,そういったケースを家裁で処理するに当たって,一種のけじめといいますか,双方の納得度を高めるためには,非常に必要なプロセスだと感じております。
 では,お子さんの意向調査,家裁の外でどんなふうに行われているかというところで,ADRのお話を少しさせていただきたいと思いますが,ADRでは子どもの意向調査のようなことはしませんが,親の口から子どもさんの気持ちが語られるということはよくあります。特徴としましては,そこでは比較的正直な,ゆがめられていないお子さんの声が聞かれることが多いように思います。例えば,モラハラ夫だけれども,子どもにとってはいいお父さんなのだというお母さん側の評価があったりとか,いい父親だとは思えないし,父親が母親を痛め付けているような場面も見ているのだけれども,なぜか子どもはパパを好きなのですよねといったような,子どもの気持ちの素直な代弁があったりします。こういったところが非常に家裁の当事者との違いだと感じているのですが,その違いが何から生まれてくるかといいますと,やはり夫婦の問題と親子の問題というものをある程度切り離して考えられる土俵があって,離婚をしても別居親が子どもに関わることが子どものプラスになるのだということがある程度腑に落ちている方々だということがいえるかと思います。
 そういった当事者像等を踏まえまして,ではお子さんのためにこれからどういうことができるのか,必要なのかというところですけれども,まず大前提として,子どもの多様性というところです。面会交流一つ取っても,毎日のように別居親に会いたいお子さんもいれば,もう一切関わりたくないというお子さんもおられます。親の離婚に際しても自分の気持ちを聴いてほしいというお子さんもいれば,聴かれても困るのだというお子さんもいたりします。そういった多様性を前提として考えますと,一様に意思表明を求めるというよりは,まず大切なのは正しい情報提供だと感じています。お子さんの年齢に応じた適切な説明や質問の機会があることが意思表明の前提であって,その結果,意見を言うことを望むお子さんもいれば,そうでないお子さんもおられるというところだと思います。
 最後に,両親のケアについてお話をさせていただきます。実際の業務に携わっていますと,心底感じるのは,配偶者の仕打ちに心身ともに疲れ果てていたり,若しくは怒りの感情に支配されている方々にとって,子どもの福祉を語られたとしても,その手前にある相手への悪い感情が先立ってしまって,純粋に子どもの幸せに思い至ることが難しい状態にあるということです。そういった方々のケアは,とにかく話を聴いてあげるということが第一の方法だと思うのですけれども,とにかく時間の掛かる作業となります。ですので,現実的に一番大切だと思うのは,そういった心身の状況に至る前に早期の段階で行政等が当事者にアクセスができるということが大切なのではないかと感じております。
 こういったことを総合的に考えますと,現時点で私が必要だと思っていることは,子どもの福祉の実現のために必要なことは,子どもに直接的に何かを施すというよりは,それぞれの親が子の福祉実現に関する知識や意欲を持つということだと思います。そのため,いわゆる親プログラムが周知され,紛争のステージに上がる前の早期にアクセスすることができるということが,行政を中心としてできるようになればいいなと思いますし,加えて,離婚協議の選択肢を増やすという意味で,ADRの周知も望まれるところだと思っています。9割を占める協議離婚の中で,夫婦だけでは協議が成立しない,でも余り大げさに争いたくないという方の取決めを促すことができると考えるからです。
 以上になります。ありがとうございました。
○大村部会長 どうもありがとうございました。


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