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絶滅危惧種としての香道具~香道具ファンドNo.5「空女作の聞香炉」~

香道の神髄と言えるものが存在するとすれば、それは流派の御家元・御宗家の中にのみ在って、余人がその境地に至ることは、長い道のりを辿ってもなお困難を極めるものと想像します。
一方で、存じ上げる限りにおいては、志野流香道ご当代御家元も御家流香道先々代御宗家も同様に「香道は聞香(香木の香気を深く味わうこと)が出発点であり、到達点でもある」というような意味合いの解説をなされたと記憶しています。
香を聞くという行為を究めることが香道の神髄を修めることに繋がるのか否かは判りませんが、いずれの神髄も道を辿れば辿るほど奥深くに遠ざかり、到達点を踏みしめることなど無いのだろうと想像しています。

そのように道の遥かさに思いを馳せることが出来るのは、香木が例えようもなく不可思議な(人智を超える)存在であることに因ると考えています。

街中で不意に襲って来る、嗅ごうと望んでいないのに一方的に鼻に入ってくる化学合成香料の匂いに比べて、香木の香気は、望んで香木を入手して…必要な道具を調えて…必要な技術を習得して…時間をかけて準備して…それらが成功して初めて味わえるものであって、決して簡単に愉しめるものとは言えません。
真摯に求めなければ得ることが叶わない人智を超える香りが、世の中には存在するのです。

そして、「大自然の叡智の結晶」を適切な温度に加熱することによって僅か3㎜×4㎜ほどの小さな欠片から数十年~数百年の歳月を超えて解き放たれる香気は聞く者の心身に深く及び、琴線に触れ、筆舌に尽くし難い感覚を味あわせてくれます。

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聞香を愉しむために準備すべき道具として最も重要と思われるのが火種(熱源)である香炭団で、次に大事なのが香炭団を埋ける香炉灰で、その次が容れ物である聞香炉です。
基本的な香道具としてそれら三種が揃えば、他には銀葉(ぎんよう=香木と灰とを隔てるため薄い雲母の板を約2.5㎝角に切り金属で縁取りしたもの)と火道具(香炭団・香炉灰を扱うための七種類の道具)があれば取り敢えずは十分と言えます。

前置きが長くなりましたが、今回は三種のうち聞香炉を採り上げます。

「聞香」という表現の意味については様々な解釈がありますが、私にとって「聞く」とは、「香木の香気と一体となるべく心を開き、自らの感性を研ぎ澄ます」ことに他なりません。無心に聞くことによって香りと一体となる境地に逍遥すること、それこそが、聞香の醍醐味と感じています。そして、その境地に至るのを邪魔しないことが、優れた聞香炉に具わるべき大切な力だと考えています。
端的に申し上げると、「右手に取って左の掌に載せて違和感を覚えないこと」が第一です。
掌に包み込んでも違和感を覚えないためには、轆轤で挽かれた素地の形状や釉(うわぐすり)の品質等があいまって、心地良い柔らかさを感じさせてくれることが大切です。

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香雅堂では、これまで実に様々な産地の様々な作家・職人さんに聞香炉の製作をお願いして参りました。
景徳鎮の窯による釉裏青(ゆうりせい)や粉彩、九谷の轆轤名人の素地と福島武山さんによる赤絵細描、有田の「現代の名工」奥川俊右ェ門さんの白磁や青白磁など、生み出してきた作品たちはいずれも使い勝手の良さを誇る優品揃いだったと自画自賛しています。

そのようなプロデュース体験を重ねた後に新たに創り出したのが、京都宇治の山中で年間365日のうち360日ほど轆轤に向かっている西川さんの素地(白磁)+「京薩摩を現代に蘇らせる」ことを目指す京女「空女(くうにょ)」小野多美枝さんの絵付による作品群でした。

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※画像をクリックすると詳細情報を確認できます

西川さんは鹿や猪の棲息区域に隣接した山中に窯を築いており(鹿は食料にしたことがあるけれど、猪は迫力があり過ぎてとても立ち向かう勇気が出ないと語っておられました)、
ほぼ四六時中、轆轤の前に座っているという、まるで仙人のような印象の職人さんです。
(いつぞや打ち合わせに出向いた際に、思わず「座り詰めやと腰を痛めるから、時々は散歩とかしいやぁ~」と声を掛けると「はいはい、だいじょうぶです~」と明るく笑い飛ばすのでしたが…ある日、本当に「動けんようになってしまいました^^;」と電話が入る事態となり…とにかく根っからの仕事好きです)
その技術は素晴らしく、お願いすれば向こうが透けて見えるくらい薄手の盃も焼いてくれるほどで、持ち重りがしない軽快な素地を製作してくれます(聞香炉一基の重量は、約150gの設定です)。

京都、原田友信堂、空女、出張、記録、2013冬 (45)

絵師の小野さんは、染付から入って一時は福島武山さんの赤絵細描に魅せられ、やがて京薩摩に出会い、その再現を一生の仕事にしようと決めるに至ったそうです。
一度は途絶えた伝統技法をほぼ独学で調べ上げ、試行錯誤の末に小野流の京薩摩を確立する道を歩み始めたと伺っています。

西川さんの白磁に小野さんの絵付…京都の山中と麓とに本拠を構える名コンビが生み出した「持ち重りせず、優しく柔らかな手触りで、典雅にして優美な聞香炉」は、聞香の醍醐味に浸る一助になってくれるものと期待されます。

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※このnoteは、麻布 香雅堂が運営する「香道具ファンド」の関連商品を紹介しています。香道具ファンドについて、詳しくは以下noteを恐れ入りますがご覧ください。
『絶滅危惧種としての香道具』https://note.com/okopeople/n/nbb7b6aab65ef

香道具ファンドの対象商品は、毎月【第一土曜日】頃に、弊社オンラインショップKOGADO STORE内にて公開(その10日後に販売)します。少しずつ種類を増やしていきますので、どうぞお楽しみに!


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