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香道具ファンドNo.3「八角一枚札」

※このnoteは、麻布 香雅堂が運営する「香道具ファンド」の関連商品を紹介しています。香道具ファンドについて、詳しくは以下noteを恐れ入りますがご覧ください。
『絶滅危惧種としての香道具』https://note.com/okopeople/n/nbb7b6aab65ef

香道具ファンドの対象商品は、毎月【第一土曜日】頃に、弊社オンラインショップKOGADO STORE内にて公開(その10日後に販売)します。少しずつ種類を増やしていきますので、どうぞお楽しみに!

八角一枚札について

香道を構成する要素は様々ありますが、一般的に最も知られているのは「組香(くみこう)」という聞香方式だと思います。
未経験者のために組香というものを簡潔に説明しますと、概略ですが、次の通りです。

・「香木の香気を深く味わい良く知るための修練を楽しく続けられるように工夫された方式」と言える
・香木の香気が例え産地や種類が同じであっても塊ごとに微妙に異なることを利用して、二種類以上の香木を用いて香気の違いを聞き分けて回答させるゲームを行なう
・回答には記紙(きがみ)或いは手記録紙(てぎろくし)と呼ばれる小さな和紙が使われる

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・連衆(組香の参加者)は回答用紙に署名し、自分の回答を記して提出する
・執筆(しひつ、しっぴつ)は回収した連衆の記紙(手記録紙)に記された回答を香記(記録紙)に書き写し、後に発表される正解と照らし合わせて正誤の点数を記録する
・最も点数が高かった連衆には、褒美として組香の香記(記録紙)が授与される
(同点が二人以上の場合には、正客に近い席の連衆が高点となる)

組香は何百種類もあり、それぞれが季節感のある和歌を証歌として雅趣豊かに組み立てられていたりしていてゲーム性も豊かで楽しいのですが、その楽しさを更に高める様々な工夫がなされました。
その一つとして、回答用紙の代わりに札(香札)が用いられる場合があります。
札には各種あり、一般的なものが銀葉盤を蓋にする香札総箱に納められる小札(花月の札)ですが、特殊な例として「八角一枚札」があります。

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連衆一人当たり十二枚が必要な小札の役割を一枚で済ませられるのが、一枚札の真骨頂と言えます。
黒柿や黒檀・紫檀・鉄刀木(たがやさん)などの堅牢な唐木を八角の板状にし、表には十種の植物…梅、藤、桜、菖蒲、葵、菊、橘、楓、竹、松…が描かれて連衆の人数(十人が原則)に対応し、裏には一、二、三、四、五、六、七、客と描かれており、それぞれの横面に小さな穴が空けられています。

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その穴には、主に象牙で彫られた簪(かんざし)と呼ばれる小さな団扇のような道具を挿し込むことにより、各自が自らの回答を示すことが出来るように工夫されています。

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例えば、自分の印が藤だとして、回ってきた聞香炉に炷かれている香木が一だと思えば、一枚札を裏返して一と描かれた場所の横面の穴に簪を挿し込んで、他の連衆に知られないように表を向けて、回されて来る四方盆に載せて次の連衆に回します。
八角一枚札を用いる場合は、聞香炉が回される毎に連衆の回答を回収し、答え合わせを行なって記録に認(したた)めてから次の香が炷かれます。
このような方式を一炷開(いっちゅうびらき)と呼び、主に競馬香・名所香・矢数香などの「盤物」と称される組香を行なう際には、必ず適用されます。

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盤物は赤方と黒方との二手に分かれて団体戦で競うことになり、一炷聞くごとに答え合わせを行なって戦局が動いて行きますから、とても面白いのです。

盤物は盤と立物とで構成され、前者は指物師さんの分野として現代でも再現は可能ですが、後者には専門の職人は存在せず、再現は困難を極めます。
盤物が作れなくなると該当する組香が出来なくなってしまいますから、何とか工夫して製作し続けたいと願っています。

文:香雅堂 会長 山田眞裕


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