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香道具ファンドNo.2「挿朶及挿朶嚢」(松隠軒伝来写、幽光斎箱書)

※このnoteは、麻布 香雅堂が運営する「香道具ファンド」の関連商品を紹介しています。香道具ファンドについて、詳しくは以下noteを恐れ入りますがご覧ください。
『絶滅危惧種としての香道具』https://note.com/okopeople/n/nbb7b6aab65ef
香道具ファンドの対象商品は、毎月【第一土曜日】頃に、弊社オンラインショップKOGADO STORE内にて公開(その10日後に販売)します。少しずつ種類を増やしていきますので、どうぞお楽しみに!
▲▲▲限定数量・再制作の目途がありません▲▲▲
今回は挿朶及挿朶嚢の【おつとめ品を1点】【新品を2点】の計3点を出品させていただきます。本文中にもございますように、再制作ができない状況となっております。将来的に入手をお考えのお客様は、是非この機会にご検討いただきますことをお勧めいたします。

挿朶及挿朶嚢について

香道具とは、文字通り「香道に用いられる道具」です。

では、どのような道具が香道具に該当するかを簡潔に言い表しますと、「御家元・御宗家に認められて稽古や香会等に必要とされる道具」と言うことになります。香道は流派によって成り立つものと考えられますから、用いられる道具が流派ごとに異なるとしても不思議はなく、むしろ当然と言えます。

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志野流香道に特有の特徴的な香道具の一つに「挿朶嚢(さしえだぶくろ)」があります。『桂香』(志野流香道松隠会発行の志野流香道要覧)に公開された解説文の一部を抜粋してみますと、

『宿直物(とのいもの)袋を模して作られた、掌にのる程の大きさの、香を入れる袋。四角い巾着の隅には房を付ける。香会に参加する各自がこれに名香を入れて持ち寄る。口の結び目には季節にちなんだ十二ヶ月の趣を表わした造花を挿し添えて目印とする。内十組の会などでは十組を台の上にのせ、四季棚や床に飾る。』

とあります。(「内十組」、「四季棚」については別の機会に触れさせて戴きます)この道具の用途は他にもあり、それこそが極めて有用な道具として門弟に重宝がられる要因となっています。

すなわち、万能の床飾りとして単独で用いることが出来るのです。つまり、挿朶嚢さえ床に飾り置けば、他には何も必要が無いのです。
(嚢には、十二ヶ月に応じた造花を挿し添えます)

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500年を超える志野流香道の歴史の中で、本歌(オリジナル)の道具の復元が何回企てられたのかは存じませんが、平成2年、御家元(第二十世蜂谷幽光斎宗玄宗匠)から「松隠軒の頒布品として希望する門弟に提供しようと思うから、調製・実務を担当して」とのご用命を賜わりました。

松隠軒(名古屋市上名古屋)に出向いて伝来品(二種類ありました)を拝見し、新しいと思える方(それでも正絹の裂や紐は退色が著しく、調製当時の色彩は想像するしかありませんでしたが)を拝借して帰り、長期間に亘って試行錯誤の末に漸く「松隠軒伝来写」として合格点を頂戴できる仕上がりに至りました。

御家元からは「皆さん欲しがられるだろうから、出来るだけ安価に作れるように努めて!」と繰り返し拝承しましたが、挿朶1本だけでも相当な金額になるため、とても安価には設定できませんでした。

それでも先ほど述べましたように大変に重宝する道具ですから、全国の門弟諸氏が沢山のご注文を寄せられました(香雅堂は‟黒子“ですから、注文の葉書は松隠軒に届きました)。

当時の記録を見直しますと、挿朶がひと月当たり5組しか調製できないため、皆さま方には何か月もお待ち戴き、1年以上かけてお申し込みの順番に納品していました。

挿朶及挿朶嚢④

(御箱書は注文数分を一度にお願いしましたから、御家元には大変なご苦労をお掛けした記憶があります。桐木地製の外箱は挿朶用・紫の挿朶嚢用・朱の挿朶嚢用と三種で一組でしたから、御箱書の総枚数は200枚を超えた筈です。蓋だけを車に積み込んで、松隠軒に出向きました)

頒布が終了した後にも、当初の機会に申し込み漏れた門弟から随時お申し込みがあり、その都度、御家元に報告して許可を戴き調製していましたが、御箱書を頂戴しに出向いた或る日のこと、『これ以降は、欲しい門弟には香雅堂で受けて、作って戴いて結構です。箱書は、しますから。』と仰っていただきました。

つまり、御家元を通じなくても取り扱いを弊社に任せて戴けるようになり、それを受けて、店頭で挿朶及挿朶嚢を展示するようになったのでした。

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さて、嚢は特別に注文分を織り上げた本金錦を片身替わりに縫い、正絹を草木染して組んだ紐を縫い刺して、口は香炉の仕覆と同様に仕立ててあります。本金錦を織ったり正絹を草木染したりと素材から作らなくてはならず大変な仕事ではありますが、飽く迄も御家元に成り代わって‟黒子‟として調製を担当するわけですから、表立って職人さんを探し回るわけにもゆきませんでした。

幸いに、香雅堂の周りには設立の以前から親しくさせて戴いている花結びの第一人者や仕覆など袋物制作の名人が居られますので、嚢や紐に関しては的確なアドバイスや関与を賜われました。

大苦戦を強いられたのは、本品を香道具ファンド第二弾に採り上げる最大の理由でもある、「挿朶」の再現でした。挿朶は造花ですから、人形や摘まみ簪(つまみかんざし)等の分野に技術者がたくさん居られると思われるかも知れませんが、実は正絹で作られており、木綿の造花とは全く別の分野なのです。

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昭和時代までは京都御所出入りの職人さんが居られましたし、その後も技術を持つ方が辛うじてお一人居られたのですが、次第に高齢となり、やがては全く作っていただけなくなってしまいました。

第二弾として紹介する本品は、技術者さんが最後に作って下さったものの一つです。今後は、造花が出来ない間は挿朶及挿朶嚢の調製は叶いません。

「良く出来た工芸品」とか「美しい美術品」とか評価される以前に、志野流香道にとって無くてはならない道具ですから、絶やすわけには行かないと強く危惧しています。「これなら作れそう」とか「作れる人を知っている」等の情報がおありでしたら、ぜひ教えて戴きます様、お願い申し上げます。

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なお挿朶及挿朶嚢は志野流香道松隠軒に伝来する特有の香道具でありますから、その写である本品は、志野流香道の門弟諸氏に限定して案内させていただくことになります。その点、どうぞご理解・ご諒解を賜わります様お願い申し上げます。

▲▲▲限定数量・再制作の目途がありません▲▲▲
香道具ファンドNo.2として、今回は挿朶及挿朶嚢の【おつとめ品を1点】【新品を2点】の計3点を出品させていただきます。本文中にもございますように、再制作ができない状況となっております。将来的に入手をお考えのお客様は、是非この機会にご検討いただきますことをお勧めいたします。

香道具ファンドNo.1のあとさき

香道具ファンド第一弾「神代欅五点揃」は、おかげ様で告知直後にお問い合わせを頂戴し、現物をご確認の後、早々に成約の運びとなりました。ありがとうございます。

第一弾に関連する「絶滅が危惧される技術(或いは職先)」は、
1. 貝の彫師
2. 優秀な指物師
です。

殊に1に関しては色々と探してはいるのですが、貝を彫るという職先そのものが無くなっているように見受けられます。漆芸の産地などには貝を象嵌する仕事が残っていて技術を維持している蒔絵師さんも居られますが、象嵌に用いる貝はまるでコピー用紙のような薄さで、厚貝を彫るのとは別の技術なのです。

例えば根付師さんや彫刻家であれば恐らく問題なく彫れるとは思いますが、出来れば道具に必要なパーツを職人仕事として引き受けて下さる方が理想です。これは他の職先にも共通する課題なのですが、一般的な香道具は飽く迄も道具であり、必要とされる門弟になるべく安価でお使いいただくことが使命の一つと考えているからです。

もし技術者をご存じであったり、ご自身が技術者であられたりして「何とかしてやろう」とお考えの方が居られましたら、ぜひご一報賜わります様お願い申し上げます。

文:香雅堂 会長 山田眞裕


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