25 エナリアの思惑
「その名の通り模擬的に再現された戦場の状況を用いての頭脳戦を行うのがウォーシミュレーション」
メルティナとシュレイドはその説明で概ね理解が出来たようで意図を察して頷いた。ミレディアは目を見開いたまま口をぽかんと開けている。
「アアー、その表情イイね!!!!」
カレッツが一言発するとエナリアの視線が突き刺さる。
「あ、すいません」
カレッツは即座に押し黙った。
「つまり、予め決められた戦場設定に対して自分が指示判断を行う立場の状況であると想定し、考え方を披露するゲームという事で間違いないですか?」
「ええ、理解が早くて助かりますわ。では今回____未だ誰一人、周囲が納得できる見解が出せていない難問。霊峰ムドイーヴォでかつて起きたとされる神々の戦、神カメオスとコーモスによる『終始の戦』をモチーフにしましょうか」
周りの生徒会メンバーの空気が変わりスカーレットが思わず声を上げる。
「ちょ、会長! お待ちください!!! 本気ですか? あれは神話級の戦役です! しかも元は作り話ですし、信憑性もない悪戯としか思えない設定であった無茶苦茶なシチュエーション!! 結果も引き分けで勝敗はついておらず、結果的には神話の時代が終わるきっかけになったと言われる戦ですよ!? 未だに誰もその天秤を傾ける糸口すら掴めていない。ストラテジーゲームとして周りの私達ですらどちらが優れているか判断できないような戦の設定は流石に!!!」
エナリアが僅かにスカーレットを一瞥すると彼女は静かに口をつぐんだ。
「ふふ…だからこそ意味がある、というわけなのよね~」
エルは口元に手を添えて思考していた。
「アアン? わっかんねぇ!! どういうことだ??」
アイギスはよく分からないといった感じでエルに質問する。
「これは私達、今の生徒会メンバーにとっても必要な事なのよきっと。力で真っ向から西部学園都市に対抗するのは今の東部では無理があるもの」
「無茶な戦場だろうと指揮官の判断に対してキチンと前線の俺達も意図を汲みとる力が必要という事だな」
ガレオンが腕組みをしながら納得したように笑みを浮かべる。
「よーするにアタシらもよーく考えろって話か?」
エナリアが口を開く
「早速始めましょうか。神話の最後の物語は当然、知っているわね?」
「はい。一応は本で読みました」
メルティナが真っすぐに答える。
「なら細かい状況説明は不要ですわね」
有無を言わせぬその言葉に生徒会のメンバー達は一様に黙り込んだ。
「考えるポイントとなる場面は今回は一つだけ。コーモスとカメオスが一対一の真っ向勝負をしていたとされる際、周りの眷属達はただ見ていただけ。この時点においてカレッツ、そしてメルティナの二人がその戦いで指示を出せる立場であったなら何を考えるか? を提示してもらいますわ。勿論、コーモスとカメオスのどちらの側についている設定でも構わないわ」
場の空気が凍り付く。正解はおろか、全く情報のない場面の膠着状態を解く方法など考え着くのは不可能に近い。ましてや神々の軍であり人間の軍ですらない。
超常的な力が働いている可能性も存在しているのだから、これは正気の沙汰ではない事が生徒会のメンバー達の様子からも伺える。
ウォーシミュレーションとは元々、戦場の想像ができるだけの情報を用いて必要な範囲の戦いを模擬的に行うというのが通常で、空想や妄想の類の考察を求めるものではないからだ。
「…じゃ、僕から参りますね。それでいいですか?」
「ええ、それでは始めましょう」
カレッツは観念したように意識を切り替えた。
続く
作 新野創
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