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Third memory 05(Yachiyo)

「あたしたちも帰ろっか? ねっ、サロス」
「……なぁ、ヤチヨ。お前、なんであいつと仲良くしようとしたんだ?」
「だめ?」
「だめ……じゃねぇんだけど……。その、なんでなのかなーって、思って」
 
 サロスは、珍しくはっきりしないような言い方をしていた。

「……ひとりぼっちは、寂しい、からかな?」
 
 その気持ちをあたしは、痛いほど知っている。

 誰も傍にいない寂しさを……そして誰かが傍にいてくれる嬉しさを……。

「なんだそれ、よくわかん―—」
「サロスがね! サロスが……あの日、森の中で一人ぼっちだったあたしに手を伸ばしてくれたから、あたしは、今、ひとりぼっちじゃなくなってるんだよ」
「ヤチヨ……」
「だから、今度はあたしがフィリアにサロスと同じことをしたかったの。ううん、フィリアだけじゃない。あたしはこれからも寂しそうな子を見かけたら手を伸ばしてあげたいの! ……だめ、かな? サロス……」

 サロスはしばらく黙って考えていたけど、やがて、少し笑って口を開く。

「いいんじゃねの、ヤチヨがそうしたいんならさ」
「ありがとう! サロス」
 
 あたしは、サロスに満面の笑みを向ける。

「……はっ、はやく帰ろうぜ! かあちゃんたち、待ってるだろうし……」 
 
 サロスは、何か気恥ずかしかったのかあたしに背を向けてどんどん歩いていく。ただ、あたしを置いて行かないように歩幅だけは狭くして。
 
 あたしはそれがなんだか、ちょっぴり嬉しくて、日の暮れ始めた、夕日の道をサロスの後ろを静かに歩く。
 
 前を歩いていた、サロスの背中はあたしにはとても大きく、頼もしく見えた。
 
 でも、口に出したら、きっと、また調子にのるだろうから、サロス本人には口が裂けても言わなかった。
  
 ……あれ? これ、でも、この気持ちはなんだろう?

 なんだか急にサロスのことを思うと顔が熱くなっていた、夕日みたいに真っ赤になった顔を見られないよう、あたしは少し顔を俯かせて歩いて付いていく。
 
 そんな、あたしの小さな変化に気付かないサロスは家に帰ると「はらへったー」といつもと変わらない能天気な声を上げる。
 
 もう……なんか、あたしだけ、ばかみたいじゃん……気づけば、もやもやした気持ちがずっと胸の中にあった。

 そんな、あたしを心配して声をかけてくれたシスターにただ笑顔で「大丈夫」という言葉だけをいう。

 それしか、今は言うことはできないから……。
 
 ……だって……あたしもこのもやもやが何なのか自分でもわかんないんだもん……。
 
 いつもの半分くらいしか食べられなかった夕飯の終え、部屋に戻ろうとするあたしをアカネさんが呼び止め、自分の部屋に呼ぶ。


                        なんだろう?


「急にごめんね。入って入って」
「お邪魔、します……」
 
 初めて入ったアカネさんの部屋は、小さなテーブルとベッドと本棚があるだけのとてもシンプルな部屋だった。

「適当に座って。あっ、ジュース飲む?」
「えっ、うっ、うん……いや、はいっ!」
「オッケー。すぐ、用意するわね」
 
 アカネさんは、そう言ってマグカップにジュース入れて、あたしに渡してくれた。

「いただきます」
 
 あたしは、初めてきたアカネさんの部屋に妙に緊張していて、その緊張をほぐそうとジュースを一気に飲み干す。
「けほっけほっ」
「大丈夫? そんなに緊張しないで、自分の部屋だと思ってくつろいでいいからね」
「はっ、はい!!」
「もう、ヤチヨちゃん! いい? あんたは、もううちの子みたいなもんなんだから。楽に、もっと肩の力抜いて」
「はっ、はい!」
「ふっ、ハハハ」
「あっ、アハハ」

 なんだか、それがおかしくてつい笑ってしまう。そうだ、アカネさんはこういう人だ。

 そう考えたら一気に体の力が抜けたような気がした。

 アカネさんにもそうだけど、最近、シスターに対してもあたしは本当の家族のように楽に話せるようになっていた。

 そう、思っていたけど実際、心のどこかではまだ何か遠慮して……壁をつくっていたのかも知れない。

 でも、今のアカネさんの笑顔でその壁が消えていくような気がした。




「で? ヤチヨちゃん。今日、サロスと何かあったんでしょ~?」
「んっ、けほ、けほっ!!!」
 
 アカネさんの突然の不意打ちの言葉に、おかわりで入れてくれたジュースを吹き出しそうになり、また、少し咳込む。

「ごめんごめん。でも、その反応は……サロスのことで何か悩んでるでしょ? ヤチヨちゃん」
 
 アカネさんはそう言って笑って、自分のマグカップのコーヒーをひと口飲む。

「どっ、どうして? なんでそう思ったの!?」
 
 アカネさんは、魔法使いか何かなのかなと思った。
 
 だって、まだ一言も口に出していないはずなのにあたしの、悩みを全部わかってしまったみたいだったから。

「んー……なんと、なく? サロスも、今日帰ってきてから少し、変だったし」
「えっ!? サロス、変だった?」
「んっ? あぁ、いつもより箸の進みが遅かったかなーくらいだけどね」

 ……そう、だったんだ。流石、アカネさん。お母さんなんだな……。

「でも、サロスに聞いたって、まーた、悪態だけついて、何も教えてくれないだろうからさ……何、喧嘩でもしたの?」
「その……実は―――」
 
 アカネさんは、あたしの話を全部聞いた後「なるほどぉ」って言って少し笑った。

 そんなにおかしかったのかな?
  
「そっかそっか……サロスが、ね~」
「アカネさん?」
「ヤチヨちゃんと……そうかそうか」

 アカネさんは、自分一人で納得しているようで。あたしはそんなアカネさんの態度に少しだけ頬をぷくりと膨らませる。

「アカネさん! 一人で頷いてないで教えてよ!」
「あぁ、ごめんごめん。んー……多分だけどね、サロスは、ヤチヨちゃんのことが好きなのかもしれないわねぇ」
「すっ!!??」
 
 アカネさんの予想外な言葉に思わず大きな声が出そうになって、とっさに口を塞ぐ。

 もし、サロスに聞かれたら……。
 
 明日からどんな顔すればいいかわかんないよぉ!!


続く

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