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Third memory 07(Yachiyo)

「フィリア、どうしたのかな?」

「なー」

「何かあったのかな? もしかして病気とか!?……そういえばアカネさんも最近、元気がないよね」

 ここ最近、アカネさんは体調を崩すことが多くなってきていた。
 アカネさんは心配するあたしに対して「大丈夫大丈夫」と言って笑顔を見せてくれる。
 でも、言葉とは裏腹に、ベッドにずっと寝ている日も少なくはなかった。

「フィリアは、わっかんねぇけど……母ちゃんは大丈夫だ! すぐに元気になる! だって、母ちゃんだぜ!!」
 
 サロスがそう言って笑う。どうして、そんな根拠のない自信を持てるのだろうか? 

 でも、なんだかサロスが羨ましかった。
 
 ……あたしは、どうしてもママがいなくなってしまった時の事と重ねてしまうから。

「そう、だよ、ね!」
 
 無理矢理に笑顔を作る。
 
 口では平気そうな事を言ってても、きっとサロスの方があたしより心配してるはずなんだ。

 だから……あたしが暗くなってちゃダメだ。

「今日のごはん、なんだろうね? サロス?」
「……ヤチヨ、お前帰んなくていいのか?」
「えっ!?」
 
 真剣な表情で言い放ったサロスのその言葉に、あたしは驚きの声をあげる。

「いや……フィリアみたいに、たまにはお前も家、帰った方がいいんじゃねぇかなぁって……」
 
 あぁ……そっか……サロス、あたしに気を使ってくれたんだ。優しいじゃん。

「ありがとう! でも……あたしにはもう、待ってくれている人はいないから……」
「えっ!?」
 
 サロスが背を向けて、切り株に座る。あたしも隣に座ってゆっくりと話し始める。

「……あたしのママ、いなくなっちゃったんだ」
「いなくなった?」
「そう、ある日突然。あたしと、パパの前からきえちゃったの」
 
 前、アカネさんには話したことを全てサロスにも話した。

 なんでだろ? サロスにはママのこと知っていて欲しかった。
 
 いつも愛してるよって、大好きだよっていつもあたしに言ってくれたママ。

 パパとあたしのこと、宝物だって言ってくれてたママ。
 

 でも、あの日、黄色くて小さな花が綺麗で、たくさん摘んで、ママにあげようって。

 でも、あたしが振り返った先……ママの姿はどこにもなかった。
 
 
 ママは、よく体調を崩す人だった。
 
 そして、たまに「ママはもしかしたら、いつか神様のところにいかなくちゃならない」とそう、言っていた……。

 そう言われるたび、泣いて、あたしは、ママに抱き着いた。

 そんなあたしを泣き止むまで、優しく抱きしめ、頭を撫でてくれていた。
 

          優しいママ。

         大好きだったママ。
 

 ……でも、そんなママはもうどこにもいない……神様のところに行ってしまった……。

 アカネさんの今の状況、それは、ママがいなくなってしまった時と似ている。

 だから……あたしは余計に不安だった。
 
 ママみたいに、アカネさんも……神様のところに行っちゃうんじゃないかって……。

 神様のところと言うのは、こことは別な場所だと言っていた。

 ママのママが、神様がいる場所について話してくれたんだと言っていたのを覚えている。
 
 神様の体はとても冷たくて、見た目はあたしたちみたいだけど、どこか違うらしい。

 ママはそんな神様のところに行ってしまった……。

「……ごめん……」
 
 サロスが、小さくつぶやいた。

 ママのことは、アカネさん以外には、話さないつもりだったのに……。
 
 俯いていて、見えなかったけど、サロスはきっと泣きそうな顔をしていたと思う。

 サロスは本当は優しいから、寂しさや悲しさがわかってしまうんだろうな。
 
 表情が良く見えなかったのは、あたしも俯いていたからのもある……。
 
 怖かった。

 ママだけじゃない。大好きなアカネさんもママみたいに……どこかへ行ってしまう。そんな予感があったから……。

 でも、それはあたしの勘違いだって、思い過ごしだって……そうであって欲しいと願った。
 
 お互いに口も聞かずに、日が暮れ始めた静かな夕焼けの道をその日は歩いた。
 
 少し前にも、こうして二人で静かに歩いた。
 でもその時とは違って、その静かな道が苦しくて、辛くて、とても嫌だった。



 数日後、あたしの心配は杞憂だったように、元気なアカネさんがそこにいた。
 
 サロスも、あたしも泣きそうなくらいすごく喜んだ。

 これからもずっとずっとアカネさんと一緒にいられる。その事実が何より、嬉しかった。

 月日は、あっという間に過ぎていき。いつもと変わらない日常、楽しくて幸せな時間。



 ……そんな日々はある日、急に音を立てて崩れ始めた。



 アカネさんが最近、また頻繁に体調を崩していた。それに……前と違ってどこか辛そうにも見える。

 あたしだけじゃない……サロスも、すごく心配していた。

 ……でも、アカネさんは笑顔で変わらずにあたしたちに「大丈夫」って言って笑っていた。
 
 
 ……最近、たくさんの知らない大人が頻繁にお家を出入りしていた。
 
 そこにはあの日、アカネさんと話していたナールさんという男の人の姿もあった。
 
 ナールさんは、他の人が帰った後もアカネさんと話をしていた。

 内容まではわからなかったけど、ナールさんと話すアカネさんはとても楽しそうで、ナールさんも小さく笑っていた。


 アカネさんも、ナールさんもお互いにお互いを好きなんじゃないかなってあたしはその時二人の笑顔を見て、そう……思った。



続く

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