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3 ある存在、ない存在


「ではこの騎士の話について気になる点はあるか?」
「……双校制度自体が生まれたのは確かまだ100年ほど前だったかと思うのですが、実際にはその時期に騎士という存在が生まれた訳ではないということですよね? それまでにも騎士になれている者が大勢いる中で双校制度というものがなぜ必要になったのでしょうか?」
「……ふむ、よい着眼点だ。騎士という存在そのものはともかくとして、騎士を育成する双校制度自体はまだ歴史は浅い方というのは正解だからな。だが、残念ながらその問いに関しての解答はない。すまないな」
「え、ないん、ですか?」
「ああ、双校制度の起源については、ほとんど情報がないからな。東西の現教師達も誰も知らないだろう」
周りの生徒達も徐々にざわめき始める。
「その話題は置いておけ、一旦話を戻そう」
女教師のひと声でまた生徒達は静かになった。
「ついでにもう一つ。お前は先ほどの質問とは逆の存在を知っているか?」
「え? 逆というと?」
「先ほどの 騎士 とは逆だ。現代には存在をせず、神話の時代には存在したであろうと言われる存在」
「ええと、神、さま、でしょうか?」
「ふむ、半分は正解といえるか。残りは?」
「…わかりません」
「ふ、まだまだ歴史の勉強が足りんようだな」
「すみません」
「これから学べ。騎士になる為の信念、根源はその時代にこそあり…脈々と受け継がれ、この学園にあるはず、だからな」
「騎士になる為の、信念……」
「先生、残りの半分の正解を埋めるものは何でしょうか?」

 シュレイドの隣にいたメルティナが質問を投げかける。彼女は少し間を置いてから静かに口を開いた。

「__ゴジェヌスと呼ばれる存在だ。そうだな、イメージとしては凶暴で獰猛になった動物、獣の類のようなものだと考えればいいだろう」

 生徒たちはその単語に再びどよめく。
当然だ。確かに神話の時代を描いた書物には度々、人々を脅かす怪物が登場することがあった。
当たり前のように怪物の事は昔話の物語などで知っているが、ほとんどの生徒たちは名前までは知らなかった。その物語にはそれぞれの特徴は書かれつつも怪物としか書かれていない事がほとんどだからだ。確かに現在はそのような存在は見たことがない。
ただ、それらの怪物達の存在に影響を受け、対策や対抗手段などの戦闘技術が描かれた書物も存在する為、一概に否定することも出来ないということらしい。

「一説では神の眷属とも言われている。そして、元々はこいつらから人々を守るために生まれたのが騎士なのではないか? というような説を唱える学者もいる。騎士が生まれたきっかけにはまだまだ諸説あるが、現在では最も信憑性が低いものとしてではあるが存在だけはしているという訳だ。ゴジェヌス自体が存在したかどうかが確認できないのだから当然の話だな。ま、本当のところは誰にも分らんし、学者でも研究者でもない私には推し量ることはできんが__」

 広い講堂のような教室中に鳴り響くチャイムが授業の終わりを告げる。
「……では、入学初日の授業はここまでだ。各自、明日は身体を動かす訓練授業に向けて準備を怠るなよ。入学ができたからと気を抜くな。弱い奴は、ここではいずれ死ぬだけだぞ」

 眼鏡の奥の眼光を鋭く光らせた女性教師が生徒達に、これまた鋭い言葉を投げかける。彼女の立ち姿は凛として清廉、黒色の艶やかな髪色はこの国では珍しく、纏う空気と共にぴりついた重苦しい空間を作り出している。

「起立、気を付け、礼!」
「ありがとうございました!!」

 生徒の中の一人が号令をかけ、緊張感の消えない授業が終わる。少しの休息という安堵の空気が徐々に生徒達を包んでいく。その中で部屋を出ていこうとした彼女からシュレイドに一声が飛んだ。

「ああ、シュレイド」
「え、あ、はい?なんでしょうか?」
「少し話がある。この後、教員棟に来い」
「え?あ、はい。」

 途端にざわつく教室、彼らの視線がシュレイドへと注がれる

「ねぇ、あんたまた、なにかやったの?」
「いや、何もしてないはずだけど。さっき質問に答えたくらいで、、、」

 そんな中で声をかけた彼女はシュレイドのもう一人の幼馴染ミレディアである。

「でも、なんだか先生。機嫌が悪いみたいだよね」
「そうか? 先生って皆そんなもんじゃないのか?」
「皆が無知すぎたから怒ってるのかも、、、ね? メル?」
「そう、なのかなぁ?」
「もしかしたらだけどねー。はぁ、強くなる事ばかりじゃダメってことかぁ、勉強は苦手なんだけど、頑張らなきゃね」
「ふふ! ミレディが勉強に困ったら手伝ってあげる!」
「あー、それは助かるーよーメルー! だいすきー!」
「ふふ、あ、ほら、シュレイドっ!!! 早くいかないとまた先生に怒られちゃうよ!」
「え? わ、分かってるって……(いや、メルティナ! だからそれは理不尽だろ。いま話しかけてきたのは寧ろお前らの方なんだけどなぁぁぁ……)」

 口には出さず心の声を分かってるってという言葉に込めて返事をしたシュレイドは気が乗らない重い足取りで教室を出ていく。思い当たることは何もなく不思議に思いながら足早に先生の元、教員棟区画へと急いだ。


続く

作:新野創
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