Second memory(Sarosu)18
「さーてと……じゃあ、手始めにあたしを一発殴ってみなさい」
「えっ!?」
「ほらほら~。あっ、言っておくけど最初から全力で来なさいよ~」
ピスティは余裕そうな表情を浮かべているが……本当に大丈夫なのだろうか? 万が一当たってしまえば……一応、ヤチヨの姉らしいし。
「どーしたの? 大丈夫だから、安心してかかってきなさい」
まぁ、、なんにせよあの雰囲気……。きっと殴りにいかないとあいつの気が済まないのだろう。
一度言い出したことは曲げない……。確かに、ヤチヨと似ているかも知れない……。
「……分かった。じゃあ、行くぞ!」
「来なさい!!」
俺は、少しだけ力は抜きつつ。だが、自分的には完璧な体制から拳をピスティに向けて放つ。
「んー。なるほどね」
その一撃をピスティは片手で軽々と受け止めていた。
「なっ!?」
「なるほどね……。型も姿勢もまるでなっちゃいないけど、、中々良いパンチね。ただ、言ったわよね……? 全力で来なさいって!」
そう言ってピスティが俺の右手を掴み、そのまま地面に投げつける。
「いってぇぇぇー!!!」
「そんな腕じゃ、ヤチヨを救い出すなんて夢のまた夢よ。相手は、訓練した大人の男たちなんだから」
「いてて……お前、なんでそんな強い――!?」
「あたしが、あんたを鍛えてあげる! 誰にも負けないくらい、強く、ね!」
「いや、答えになって―――!!!」
「はい! まずは、森ん中を十週ランニング!!」
「いや、話を——!!」
「つべこべ言わず走る!!」
まったく、納得できないが……でも……俺はヤチヨを救うためには……。
後ろにいたはずのフィリアにいつの間にか俺は追い越されていた。
フィリアが言った言葉「背負うものが俺にはない」
……上等じゃねぇか。俺は強くなる。
フィリアにも、こいつにも、誰にも、負けないくらい強く。
「うっぉぉぉぉぉ!!!」
俺は起き上がり、同時に走り始めた。
「……本当、単純な奴」
後ろで腹の立つ言葉が聞こえてくるが、気にしてられない。
……俺の拳を受け止めた……それだけじゃねぇ、、受け止めたピスティの左手にはほとんど力が入ってなかった。
……つまり、まだ余力を残していた。
そんな、相手に今の俺が、全力で挑んでも勝てるかわからない……なら!!!
「絶対に勝てるって自信が付くまでは、従ってやるよぉぉ!! うぉぉぉぉぉ!!!」
走るペースを更に上げる。だが、前を見ていなかった俺は木に躓きそのまま横転した。
「あはは、がむしゃらに突き進むのもいいけど。ちゃーんと周りも見ないとね」
……嘘だろ。俺は、ここまで全力で走って。息も上がってんのに……。
あいつは……ピスティは俺より先にいて、息一つ切れずに立っていやがる。
……どうなってんだ。この道はほぼ一本道で近道なんか……。
「焦らない。焦らない。今日、始めたばかりなんだからそんなに無理してちゃ今みたいに倒れるわよ」
「……俺には、時間がねぇんだ! のんびりしてる暇なんかーー!!!」
「落ち着きなさい……そんなに焦ってもダメ。失敗したら……全て終わりよ」
ピスティの言葉で足が止まる。
確かにそうだ……。焦ったって……。何かが変わるわけじゃない……。それは、嫌と言う思い知ったはずだったのに……。
「……良い? サロス。チャンスは何度もない。今のあんたは、足元がまるで見えていない……。だから、まずは遥か先の目標よりもあんた自身の現状を知るところから始めないと」
「俺の、現状………」
「そう……。いい? サロス。心は、今のように熱く燃えててもいい。でも、頭は常に冷静に、クールでいなさい。……フィリア……君のようにね」
「!!?? お前、フィリアを知ってるのか!!」
「えぇ。彼は、強くなるわ。今より、ずっと……。そして、いつかあなたの前に立ちふさがる。友人としてではなく、多分、敵として、ね……」
「フィリアが敵………」
「その時、今のままのあなたでは彼には敵わない。だから、今はただひたすらに目の前だけ見ていなさい。そうしている内に、今のあんたが目指しているものが何れ見えてくるはず」
そう言ってピスティが俺に向けて、笑顔を浮かべる。
……ピスティのことは、まだ正直信じられるかわからないが……。
ただ、この笑顔だけは不思議と信じても良い気がした。
続く
作:小泉太良
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