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12 槍使いの東部生徒会長

 食堂へ近づくにつれて確かにフェレーロの言っていたように場の様子がおかしいという事を三人は感じていた。殺気立っているとでもいうのだろうか、明らかに昼食の休憩時間というような周囲の様子ではない。

「フェレーロ君が言ってたこと、ほんとだったみたい」
「だな」
バツが悪そうな顔でメルティナが呟く。
「なんか悪いことしちゃったね」
「いーや、悪いのは話の内容じゃなくて行動だから問題なし」
即座にぶった切るミレディアの顔はまだ険しい。

「「あはは、、、」」

シュレイドとメルティナはプンスカしているミレディアをみて苦笑いを浮かべる。

「それはそうとさ、食堂へ向かう道でこの状態なら食堂の中はどうなってんだろうね?」
「考えたくはないよな」
「でも、お昼は食べたいし」
「近づくのは少し怖いよね」
「……ふぅ、そうだな。メルティナには危ないかもしれないし、ちょっと俺が行ってくる」
「シュレイド?」
「二人は待っててくれ。外で食べれるものをすぐ調達してくるから」
「え、私も行くよ!」
「ミレディアはメルティナの所にいてくれ、お前が居るならなんか起きても大抵どうにかなるだろうし」
「シュレイド、大丈夫?」
「問題ない、食堂で買い物するだけだ」
「分かったわよ。なるべく早めにね。お腹ペコペコなんだから!」
「ああ、じゃ行ってくる!」

 そういうや否や、シュレイドは全速力で駆け出した。周囲から何人か視線が飛んできたのを瞬間的に肌で感じた。
今、自分に視線を飛ばしてきている生徒たちは一定以上の実力者だと判断することができた。とはいえシュレイドにはさして興味がある事ではなかったので食堂までの道を一直線に駆け抜けて入り口から突入していった。

「といってもこの程度の視線だと、じいちゃんと対峙した時に向けられた威圧感に比べれば、、、なんていうか、そよ風みたいなもんだよなぁ」

 食堂がある建物の入り口から見える範囲だけでも更に大混乱の様子だった。かなりの広さがある食堂らしく、あちらこちらで乱闘騒ぎのオンパレードになっていた。周りの様子を横間に見ながらシュレイドは食堂の中へと疾風のように駆けて足を踏み入れていった。

「うへぇ、とんでもない所だなここ……」

 建物内に入って購買らしき場所を確認しようとして立ち止まった瞬間、シュレイドは危険を感じて咄嗟に身を翻し飛び上がった。
 直前まで自分がいた場所には槍が地面に突き刺さっている。

「っっ!? なんだ?? 攻撃?」
「あら? これは流石というべきかしら」

 その瞬間、周囲の場のざわめきが一瞬にして沈黙して、足音を鳴らし人込みから現れた青い髪の女生徒に注目する。

「危ないだろ! いきなり何すんだ」
「貴方が、シュレイド・テラフォールで間違いございませんこと?……ま、私の本気の突きをかわせる入学直後の新入生なんて限られますし、当たりっでしょうけど」
「何か俺に用なのか? 一体誰だアンタ?」

 その言葉を発した途端、周囲に再び熱気を帯びていく様子がわかった。その空気は伝播してざわめきへと変わっていく

「えええー、エナリア様をしらないだって!?」
「嘘だろ!? 学園外でも名が知られているほどの人物だぞ!!!」
「というか入学式でも挨拶していらっしゃったろうよ!?」

などという台詞が飛びかって耳に入ってくる。

「エナリア? あー、えーと聞き覚えがあるな。確か、昨日のフェレーロとの初めての会話の時に……ええーと、槍使いの生徒会長、だっけ?」
「……私を呼び捨てとは度胸があるのかそれとも?……それに、まさか丸腰? あなた、、もしかしなくても素手で食堂までいらしたの?」
「いや、まぁ昼飯には必要ないかと思って」
「呆れた。この学園では常に騎士たるべき行動を取るのが礼儀、基本でもありますわ」
「槍を本気でいきなり投げつけてくるのが騎士の礼儀だとでも言うんですか?」
「あら、言いますわね。確かにいきなり投げつけるのは卑怯ですわ。でも、かの『英雄の孫』が今年入ると聞きましたから力量を試してみようと思いましたの。……ただ、どうやら見込み違いの人物のようだったみたいですけれど」
「……また……はぁ。見込むのは勝手ですし、落胆するのも構わないんですけど、そこ、どいてもらっていいですか?」
「……私を前にして怯まないという点だけは、非常に評価できますわね」
「友人を外に待たせているもので、早く食べられるものを手に入れたいんですよね」

 どうやらエナリアと会話が出来ること自体が稀な事らしく、周囲からは様々な視線がシュレイドへと向けられる。が、シュレイドは何食わぬ顔でそこに立っている。
 エナリアはそんな彼にひとこと言い放った。

「……行きたいなら、私を退けていったらどうかしら?」
「あの、女性に授業や訓練でもない所で手を上げるのは、、、ちょっと」
「……はい?」
「だから、流石に女性に実戦のつもりで力を奮うのはためらうというか」
「……その言い方ですと、この私をどうにかできる。もしくは自分の方が強いというようにも聞こえますけれど」
「……いえ、そういうつもりは、ただ、貴方が相手だと、その、手加減が出来なさそうだなって、そう感じてまして」
「へぇ、その言葉が冗談かどうか確かめてみたくなりましたわ」

エナリアと呼ばれた少女は、床に突き刺さった槍を引き抜くとシュレイドに向けて構え直した。ビリビリと辺りにエナリアの張り詰めた空気が広がった。



続く

作 新野創


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