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Second memory(Sarosu)08

良かった。最後にまともに見たヤチヨの顔はあの日、母ちゃんの部屋を飛び出して来たときに見た泣き顔だったから。さっきみたいに時折見せていた作り笑いじゃなくて本当の笑顔だ。

「多分な。それに俺は、後で怒られるだろうよ。なんで、君まで落ちてるのさ? ってね」

 フィリアなら、きっと間近で見られれば俺の今の状態に気づかれてしまう。正直、痛みで視界が掠れてきてほとんど見えていなかった。かろうじて見えるのは近くにいるヤチヨの楽しそうな顔だけ。

「呆れた顔でね。」
「変わんねぇな」

 こんなバカ話でもしていないと、痛みで意識なんか飛んで行っちまう気がした。 間違いなく今までの怪我で一番痛い。あー……っくそ、なんで俺はいつまでもこんなバカなんだろうなぁ。
 
 しばらくして、フィリアが戻ってきた。なんか、ごちゃごちゃ言っていたが正直聞いていられるほど、俺に余裕なんかなかった。俺は最後の気力を振り絞りヤチヨを背中に乗せ。フィリアが投げたロープを登り始めた。

 登り切った先には呆れた顔をしたフィリアが立っていた。正直、後半はほぼ意識なんかなくてフィリアがとっさに引っ張り上げてくれなければヤチヨ共々、穴の中に落っこちていただろう。

「まったく、、無茶するよ。君は……」
「サロス、ありが――。 サロス? サロス!!」
 
 フィリアにヤチヨを預けた安心感から力が抜けていく、、俺の身体は後ろに傾いて再び穴の中へと吸い込まていく、薄れていく意識の中でヤチヨのうるさい声がどんどん遠ざかる…… 
 
 あー、、俺、このまま死んじまうのかな?
 身体と意識が一緒に闇に落ちていく中、誰かが俺の手を掴んだ。

「死なせるものか!! 君は、、アカネの大事な息子なんだから!!!!」

 
 それは、、かあちゃんとよく話していた、、あいつだった……。

 次に、起きた時、、俺が見たのは知らない真っ白な天井だった。

「気が付いたか、、気分はどうだ? 」

 眼鏡をかけたそいつはそう言って俺の方を見ていた。

「あんたは、、確か。母ちゃんの……」
「久しぶりだな。えーっと」
「サロスだ」
「そうか」

 小さいころに見た記憶のままに、母ちゃんと良く一緒にいたそいつは俺を見つめていた。確か、母ちゃんはナールとか言ってたかな?

「その名前は、アカネ、、アカネさんが付けてくれたのか?」
「あぁ。 そうだ、、あんたが助けてくれたのか?」
「……あまり、、やんちゃをし過ぎるなよ。君がいなくなれば戻ってきたときにアカネさんが悲しむ」
 男は、そう言って俺に背を向けた。
「帰ってなんてこねぇよ、、母ちゃんは……」

 小さく、呟くように言ったその言葉を聞いてか。兄ちゃんは音もなく振り返りそのまま真っすぐに俺の方へ歩いてきた。

「いいや、帰ってくる! 俺が、取り戻す!!」

 その時に見た、男の目はとても怖かったのを覚えてる。まるで、何かに取りつかれたみたいにギラギラと輝いていた。
 そして、理解した。俺以上にこの人は母ちゃんの存在に縋っているって。俺には、母ちゃんがいなくてもヤチヨやフィリアがいた。でも、この人には母ちゃんしかいないんだって。

「……。すまない、、少し、取り乱してしまった。だが、、君の母親は私が必ず取り戻す」
「とりもどす?」
「……話が過ぎたな。君のお友達も違う病室にいる。まだ、眠っているみたいだがな」
「!!??ヤチヨは!?」
「心配しなくていい。君よりは軽傷だ。ただ、しばらくは君たちは病室で過ごしてもらうことになるが」
「待てよ!!」
「んっ?」
「あんたは、なんで俺たちにそこまで」
「弟の――フィリアの大事な友達だからかな?」
「えっ?」
「失礼するよ。また、どこかで会うだろう。サロス」

 そう言って、その兄ちゃんは去っていった。俺は、今更ながら襲ってきた眠気に身を委ね。そのまま眠りについた。



続く

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