16 暗躍する者達
シュレイドが立ち去った食堂の隅に生徒の少人数集団が立って一部始終を眺めていた。おおよそ生徒達と変わらない風貌だがその雰囲気は異質だった。どのように異質かと問われれば川に海があるような、丘に山があるような、空に大地があるような只ならぬ雰囲気であったと言えるだろう。
その内の一人の男が口を開く
「なぁるほどね。ありゃ確かに脅威の強さだなぁ」
続けて長身で細身の男がその言葉に続く
「だが、僕らの目的に支障はない。あの目を見て確信した。やつに騎士たる器はない、本物の騎士ではないならば、いくら強かろうと僕らの敵にすらならないよ」
「ねぇねぇ、あのシュレイドって子もかっこいいけどぉ、ハルベルトはほっといてよかったの? ここにもさっき来てたよねぇ~」
「……もういないみたい」
あとから話に割って入ってきたのは小柄でお喋りそうな少女と寡黙に佇む少女の二人だ。
彼女がハルベルトという名前を出した途端、この場に強張った空気が色濃く漂うが、細身の男がそれを断ち切るようにぽつりと答える
「僕達の動きに警戒している気配があるな、しばらくは他の根回しに尽力すれば問題ないだろう」
彼は視線を鋭くして呟いた。
「わかった。でもハルベルトが私達の行動を邪魔しているなんて思えないんですけど~」
小柄でお喋りそうな少女は話しながら髪を指でくるくると回し続けている。
「実際、よく分かんないやつだからなァ。アイツの情報だけは未だに詳細が手に入らないと来たもんだ。かつての魔女達の情報を仕入れるより難しいんだって」
その飄々とした男の言葉に寡黙な少女は反応する。
「…………魔女」
「だが、それでもあのずば抜けた強さと騎士としての器は本物だ。目的が明確に存在することは剣筋と目を見ればわかる。俺達の障害になると断定はできないが、警戒をするに越したことはない」
「フーン、でも、ま、ここからが楽しいんだもんねぇ。ハルベルトもだけど、早くシュバルトナインの方々とも戦ってみたいなぁ。あ、でもでもその前にテラフォール君とお近づきになろっかなぁ~個人的に興味持っちゃったしぃ~」
小柄でお喋りそうな少女が楽しそうにそういった。
「あたしは、カレン、先生と……」
寡黙な少女が一言、口を開いた。
「わかるゥ。学園の底辺生徒達じゃ物足りないんだよなァ、あ、俺も今は生徒だけど!!! しかも底辺イメージの生徒だけど!!!!」
「とにかく時間が長引いたとしても僕たちの目的に支障はない、早いか遅いかなど最早、些事に過ぎない。結果は、既に決まっている」
「まぁねぇ」
「そうよね~」
「……うん」
3人は深く頷いた。
「既に貴族の性根は欲望で腐り落ちている。魔女の血脈は最後のベルティーンの死で途絶え、そして、この時代の騎士の頂点、英雄グラノも無力化されたことで騎士の封印も徐々に弱まっている事だろう。あとは、グラノの後継騎士、英雄になりうる可能性を持つシュバルトナイン達の存在を消せば終わり、いや、始まりか……さぁ、みんな、もうまもなくだ。僕たちの手で神話の続きを始めよう。全ては……」
『『『『……〇〇〇〇〇解放の命を果たすために』』』』
彼らはそう一言、整った声色で全員で同じ言葉を輪唱すると別れの会話を交わすこともなく各々がお互いに背を向け、食堂からバラバラに立ち去っていった。
そして、それを見つめている生徒がいた。今の四人にさえ気付かれない事からかなりの実力者であることがわかる。
「厄介だな。こちらの存在に気付くのも時間の問題かもしれない。さて、どうしたものか。早く彼と接触せねばならないが、隙がない……」
彼は何かを思考しながらその場を去っていった。
続く
作 新野創
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