Sixth memory (Sophie) 04
「1、ゼ—――」
「誰かを守る!! っていう気持ち、でしょうか?」
「……じゃあ、そのためには何が必要なのかしら? 強大な力? 豊富な知識? それとも他の何か?」
アインさんが、ボクの目の前、ほぼゼロ距離まで顔を近づける。吐息がかかりそうな位置のアインさんにドギマギしつつも、口にしたことでボクの考えは自分でも驚くほどに頭の中で核たるものは決まったような気がした。
整理はまだ、できていないけれど。
「どちらも必要だし、どちらも不要だと思います」
でも、そう思えたのは……
ちらりとボクをただ見守っているフィリアさんの方へ視線を向ける。
フィリアさんは気づいているのか、いないのかボクには目を合わせずただ目を閉じて答えを待っているようだった。
「じゃあ、何が必要?」
「えっ!!!!」
「誰かの言葉を借りるのはなしよ。あなたの言葉で答えてね」
ボクの言葉……言葉で表すとなるとそれは途端に難しくなった。
ボクは一生懸命考える、でも、あれも違うこれも違うと考えたことがどんどん消えていく。
ふと、昔ツヴァイ団長に言われたことを思い出した。考えてもわからないなら全部、口に出して言ってしまえばいい。
そうすれば、自分が考えたことを誰かが整理してくれるかも知れないと。
一番、良くないのは、考えを自分の中だけで消化してしまうことだと……。
「えと、優しさ? 思いやり? 誰かを信じる気持ち………あっ、信頼感でしょうか!! ……違うな。その……一人ではできないことを、いや、最終的には一人でどうにかしなくちゃいけないかもだけど、でもそうじゃなくて!! その、誰かと共にする? みんなで頑張る!! 自分の弱さを認める!! 自分の、力の弱さ、心の弱さ? 意志の弱さ? それを糧にして強くなれれば、きっと守れる。守りたい誰かを守れると思います!!!」
アインさんは、ボクのそのしどろもどろの答えを聞き、吹き出し、大きく笑った。
そして、そのまま笑いを抑えながら、ボクの両肩に手を置く。
きっとボクは恥ずかしさで真っ赤な顔をしていたと思う。
「誰かさん以来ね。こんな0点の解答をした子は」
「えっ!?」
「ソフィ、自警団は仲良しごっこの場じゃないの。仮にも入ろうと考えている人間自ら弱いとみとめるなんて」
ボクの両肩から手を離すと、アインさんの表情が、さっきまでの笑顔とは一変、真面目な表情に一瞬で切り替わる。
その目がじっと、真剣な面持ちで怖いくらいにボクを見つめる。
「ボクは!!!!」
それでも、いくら失格だと思われても、それでもボクは!!!
「合格~」
アインさんのその一言に、キョトンとなり全身に入っていた力が抜ける。ん? 合格……? えっ!? どういうことだろうか?
脳内がパニックになり、さっきまで口に出そうと思っていた言葉が四方八方に飛んでいき、霧散していく。
「えっ!?」
「ソフィ、あなたを歓迎するわ。ようこそ、私のアイゴケロスに」
アインさんはそう言って両手を広げて、ボクを歓迎しているようだった。
えっ!? ホントに!? ボクがあのアイゴケロスに?
エリートしかいないと言われているあのアイゴケロスにボクが!?
「えっ、ふぃ、フィリアさん!!」
フィリアさんは、小さくボクに笑いかける。そしてボクの左肩にポンっと右手を置いた。
「おめでとう。でも、君の根底に眠る今の強さは、いずれ誰にも負けない、君だけの強さとなって君をいつか助けてくれるはずだ」
「はっ、はい!!!」
「でも、困ったわね。移団手続きって面倒なのよねー」
そう言って、アインさんがフィリアさんのほうをちらっと見る。フィリアさんは小さくため息をついて全てを覚悟した表情でアインさんの方を向く。
「わかっています。後は、任せてください。面倒な事はどうにかするので、アイン、あなたは彼の、ソフィの正式入団の受け入れ準備だけ進めていておいてください」
「えっ!?」
フィリアさんが、出かけるための準備を始める。その準備は並々ならぬものでまるで実践に赴くのではないかと思えるほどに、入念に入念を重ねているようだった。
実際の実戦での経験などないけれど、訓練所で習った実践となった際の装備一覧と変わらないものを付けていく。
「任せて。じゃあ、さっそくソフィの団服を作らなきゃね」
「まっ、待ってください!! 正式入団ってボクはまだ訓練所に入って間もなくて―――」
ボクの言おうとした言葉をアインさんの人差し指が止める。そして、ボクに向けて小さくウインクを彼女がする。
「で・も・ね、あなたには早速、明日から正式入団してもらうわよ。私の団に」
「しっ、しかしボクはまだ知らないことや実戦経験だって!!」
「訓練や、シュミレーションは入団してから自分で自主的にやってもらうわ。それに、経験不足は現場で積む方が断然早いわ。安心して、ちゃんとフォローは最大限入れるから」
アインさんの言っていることはむちゃくちゃだった。今までのボクの自警団の当たり前が一瞬で壊されていく。経験を疑似的ではなく、その場でしていくなんてそんなーー
そんなのってアリなのかぁ!?
「ふぃ、フィリアさん!!」
「だから言ったろ。君には、アインの団が向いていると。良かったな。念願の正式入団ができて」
フィリアさんは、こうなることが全てわかっていたかのような口ぶりでボクに笑みを向ける。本当にこの人はーー色々と……。
「でも、ボクは!!」
「心配しなくていい。アインはあんな正確だが手腕は確かだ。アイン、僕は早速、移団についての話をツヴァイにしてくる」
そう言って、フィリアさんが颯爽と背を向けて部屋を出ていこうとする。その背中から伝わってくるものはなんだろう……この……ただでは済まないような戦いに赴くかのようなこの重圧感は……。
「すぐ、戻ってくる?」
「……手続きの仕方しだい、かな?」
「そう、行ってらっしゃい」
アインさんが手をふりふりと小さく振る。
「あっ、そうだ……」
出ていこうとしたフィリアさんが、踵を返し、ボクの耳元で小さく囁いた。
『……アインに気をつけて』
その意味深な一言を告げ、フィリアさんは部屋を出て行った。
「さてさて、どこまでボロボロになって、帰ってくるかしらね」
「えっ!?」
アインさんの口から、今、不吉な言葉が………。
「そ・れ・よ・り、ねぇ、彼、けっこう強引だったでしょ?」
「えっ? はっ、はい」
アインさんに突然話を振られ、驚きの交じりの返事を返す。
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