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8 嫌いなコト

 シュレイドが周回のスタート付近までたどり着くとメルティナとミレディアは既に到着して休憩していた。
 他にもちらほらと最低限のノルマを完走した生徒達がいるようだ。だが、ほとんどの生徒は息を切らして座っていたり横になっている。

 多くの者が体を休めている光景は彼らの未熟さを表しているようだった。
 そんな生徒達を横目に今しがた戻ってきたシュレイドはぽつりと呟く。

「よっし。んじゃ次はもう少し本気で走ってくるか」

 シュレイドは軽く何度か飛び跳ねながら腕をだらりと揺らして体を脱力したかと思うと次の瞬間には力を込めて地を蹴り駆け出した。

「え、ちょ!シュレイド!?」
「嘘でしょ?」

 メルティナとミレディアが呆然とシュレイドの背中を目で追うと周りの生徒もそれにつられて視線を向けて口をあんぐりと開けていた。風を巻き起こすかのように駆けていったその背中はあっという間に森の中へと消えていく。

「はぁ、どんな体力してんのよ、、、いや、まぁ知ってはいたんだけど、ねぇ?」
「やっぱりシュレイドって凄いよね。ふふふっ。本人は昔から自覚ないみたいだけど」

 その時、二人の耳にひそひそと声が聞こえてきた。

「けっ、先生達の前でいいとこ見せようみたいな魂胆がバレバレだっつの」
「体力だけありゃいいってわけじゃないのになぁ?」
「……今年はあの大英雄グラノ様の孫がいるって噂あったけど、アイツじゃね? もしかして」
「なぁんだ。そういうことかよぉ。俺達とは持って生まれた才能が違うってやつねぇー」
「将来が決まっているエリートってやつは違うねぇ。一般的なふつーの騎士を目指す俺達との格の違いを見せつけてやろうってか?」
「まじかよー、いやな性格してるよなぁ」

 メルティナが眉間にしわを寄せて困ったような表情でミレディアに顔を向けた瞬間。彼女が烈火のごとく飛び出していく姿が視線をかすめていった。
 隣にいたミレディアが凄い形相と速度で、陰口を言っている集団へと突っ込んでいったのだ。

「あれ??…、ええええ、ミレディ!? ちょ、ちょっとすとっぷー!!!」
 と叫んだが時は既に遅かった。矢のごとき速さで集団の元に向かっている。
「げぇふっううう」
その内の一人の生徒がド派手に転がりながら吹っ飛んでいった。
「っざけんな!! シュレイドがここに来るまでどんだけ鍛錬してたのかも知らないくせに勝手なこと言うんじゃないわよ!!」
 手近な一人の男子生徒を飛び蹴りで吹っ飛ばしたミレディアはその集団に啖呵を切る。
「はん、私程度にこんな簡単にぶっ飛ばされるくらい弱いのに陰口なんか言う暇なんてあんの?? そんな暇あるなら、あんた達ももう一周くらいは軽く走ってきたらどうなのよ!!」
「んだとてめぇ!! いきなりなにすんだ!!」
「これから騎士を目指そうって人間が腐った事抜かしてんじゃんないって言ってんのよ! 何しにここへ来たのよ! わざわざ愚痴や嫉妬しに来たわけじゃないでしょうが!!」
「ちょちょ!! ミレディ! やめよー!」

 背後からメルティナが慌てて駆け寄ってきてミレディアをなだめる。

「止めないでメル!! こいつらの捻じり曲がった性根、叩きなおしてやるわ!」
「ああ!? んだと」
「私はね、、、あんたみたいな陰でこそこそしている奴が昔から……だい、、だい、大っ嫌いなのよッ!!」

 取り巻きのリーダーのような雰囲気を醸す生徒がミレディアににじり寄る。周りもその様子に気付いて視線を向ける。険悪な空気がミレディアと男子生徒の間に生まれていた。

 そんな空気の中、耐えかねて先に手を出したのは男子生徒だった。素早い身のこなしで構え、拳を突き出してくる。
「おらぁあああ!!」

 拳が迫った瞬間、ミレディアは刹那に前進し、拳との距離を潰しながらその拳が撃ち抜かれるであろう方向に身体ごと一緒に首をひねりながらかわしていく、そのまま左足を軸にした動作の流れで相手の背後へとくるりと流れるように回り込んでいく。
 背中側からガラ空きになっているわき腹に今の攻撃のお返しとばかりに左の拳を回転の勢いも加え、捻じりながら叩き込む。

「っがっ!??」
 相手はそのままよろよろとわき腹を押さえて倒れ込んだ。

 勝負はあっけなくミレディアのその一撃で決まった。

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