見出し画像

15 食堂戦勝利報酬?

「な、何が起きましたの??」
「拮抗した状態から瞬間的に先に力を抜くことで俺の体勢を崩そうとした」

シュレイドの説明にエナリアは眉間にしわを寄せた
「ご明察ですわ」
「でも、あらかじめ分かってればそのタイミングでこちらは踏み込んで距離を詰める。力が抜けている瞬間を狙って軽くかかとから足払いでもすれば、この通り、簡単にすっ転ぶってわけ」

エナリアは自身の想像を越えていたシュレイドの対応策、行動に天を仰いだ。
「つまり、脱力の瞬間を狙ってほぼ同時のタイミングで動いたと??」
「もっと距離が密着した身動きしにくい位置での迫り合いだったなら悪くなかった手なんだけど____で、まだ、続けるのか?」

視線をゆっくりとシュレイドへと落としてエナリアは答えた。

「……いいえ、これ以上の恥をさらすつもりはありませんわ」
「でも、エナリア、、、あ、えーと、会長」
「エナリアで構いませんわ」
「どうも。けど驚いたよ。俺と一撃以上のやり取りが出来たのはこれまでに4人しかいなかったし、エナリアで5人目だ。あ、とはいえ他の人と戦う機会なんて、これまであんまりなかったんだけど、、、」

再びエナリアは眉間にしわを僅かに寄せる。
「フォローのつもりですの?」
「いや、まてよ? というか一撃だったのはいつも山で狩りをしていた時だけじゃないのか? マキシマムさんも、カレン先生も、勿論じいちゃんも、、、一撃じゃ、、、ない。というか、まともに勝てたことがあるのミレディアだけじゃねぇかぁ、、、はぁ、、、俺もまだまだ弱いってことかぁ____はぁあ、、、」
「ちょっと!! 虚空を見つめてぼーっっとしないでくださるかしら!!」
「ああ、悪い。本当ならあの突きで槍を弾き飛ばして終わらせるつもりだったもんで」
「……どのみち、ほぼ一撃に等しいでしょうに……こちらは全く何もできなかったんですもの。お見事ですわ。シュレイド・テラフォール」
「それはどうも、あ、ほら、、、どうぞ」

 シュレイドは手を伸ばし、エナリアの手を取って立ち上がらせた。

「え、ありがとう。こういう紳士的な対応も取れますのね、あなたは」
「ん? 当たり前じゃないのか?……じいちゃんがそういうのうるさかったからな……あとあいつら二人も」
「そう、ふふっ」

 エナリアはシュレイドの手を取り立ち上がった。
 その姿を見て、しばらく沈黙していた周りの生徒が途端に沸き立った。

「うおおおおおおおおお」
「アイツ何者だよ!? エナリア会長にサシで勝ちやがった」
「え、エナリア様が本気じゃなかっただけよ!!」
「あの男の子、超強い~割とかっこいいし、いいかも!?」
「くぅうううエナリア会長が尻もちつく姿がこんなにも可愛いとは!?」

 一部余計な感想の声も交じってはいたのだが、この歓声の中ではそれぞれ生徒達の一人一人の言葉など聞こえるはずもない。
 そんな中、戦い終わったシュレイドの元へゼアが近づいてくる。

「すごいんだな君は」
「合図と、あと、この剣ありがとう、、えと、、まだ名前」
「あ、すまない。まだ名乗っていなかったね。俺の名前はゼアだ。よろしく、えと、シュレイド君」
「こちらこそ助かった。ゼア、さん?」
「はは、言いにくそうだね。俺も呼び捨てで、ゼアで構わないよ」
「ああ、ならこちらもシュレイドで」
「わかった。そう呼ばせてもらうよ」
「剣、ありがとう。ゼア」

 そういうとシュレイドは剣をゼアに返した。誰かの剣を借りるというのは、シュレイドにとっては人生で初めてのことだった。
 手に残る不思議なずっしりとした感覚。剣の重量以上の重さが確かにあることを感じる。ただ、この時のシュレイドにはそれが何の重さなのかまるで想像がつかなかった。

「俺自身もまだ今の戦いを見ていた震えが止まらないよ」
「でも、上には上がいる」
「そうだよな。自分言うのもなんだけど、俺も数の少ない剣使いの生徒の中では多少なりとも自信があったんだ、けど、改めて自分を鍛え直さないといけないって、シュレイドを見てて身の締まる思いだよ」
「そっか、えーと、こういうときは、がんばれ?か」
「ははは、君は随分と不器用なんだな」
「堅苦しい会話が苦手でさ。それにあんま知らないやつと話すの慣れてないんだよ」
「そうなのか……」

 そう呟いた直後に彼はどこか物憂げな表情を浮かべてシュレイドに続けてこう言った。

「……校内の模擬戦闘訓練で君とは出来れば当たりたくないもんだ」
「模擬戦闘訓練?」
「ああ、まだ入学したばかりなんだっけ? 余りに強いから忘れそうになるな。えと、通り戦場で一対一で遭遇してしまったという設定で行う戦闘訓練なんだ……誰かが死ぬことも珍しくない。そんな訓練だ」
「……そういうのもあるんだな」

 誰かが死ぬ。シュレイドはその言葉に少しばかり寒気を感じていた。いなくなった祖父の事が頭をよぎっていく。その背中にエナリアから声がかけられた。

「シュレイド」
「なにか?」
「今日の無礼はお詫びしますわ。ごめんなさい。また今度ゆっくりお話しでもさせていただけるかしら? 次の東西戦の事で貴方に相談があるの」
「ああ、はい。構いませんけど、えと、東西戦? また、知らない単語が出てきたな、、、」
「ゼアと話していたものが集団、大規模になったものだと思えばいいわ」
「西部学園都市ディナカメオスの生徒達との集団での戦闘だよ。学園のイベントの中でも最も大きなものさ」
「そんなのもあるんだな」
「シュレイド。それじゃまた会いましょう、ごきげんよう」

 そういってエナリアは取り巻きらしき生徒達数名と一緒に颯爽と食堂を去っていった。

「よし、俺もそろそろ行くよ。次の授業があるからね」
「本当にありがとうゼア」
「いいよ、あ、そだ」

 ゼアは小さなカバンからごそごそと何かを取り出してシュレイドへと渡してきた。

「ん?」
「これ食べなよ。エナリア会長との戦いでお昼がまだだったんだろ?」
「え、おお、ありがとう。けど、お前のが」
「ふふ、大丈夫。実はもう一つあるんだ」

そういってゼアはもう一つのパンをシュレイドに見せた。

「いつも、これだけはついつい二つ買っちゃうんだよ」
「へぇ~」

 ゼアから受け取った不思議な形のパンをまじまじと見つめた。らせん状の形をしたパンの中に黒い何かが詰まっている。

「うまそうだな」
「俺も好きなオススメのパンさ」
「い、いいのか?」
「ああ、あげるよ、それじゃまた」

 ゼアもその場を去っていく。その後ろ姿を見送りながら声をかけた

「色々ありがとう!またな! さて、と……ん? あれ? 俺、なんか忘れているような?? まいっか」

 シュレイドはもらったパンを頬張った。

「うんめー。なんだこりゃ、こんなものも食えるのかここは」

 気が付けば食堂の周りにいた生徒たちもいつの間にか食堂から去り始めており、先程までとは違う静かな雑談が辺りを包んでいた。

「もぐもぐ、ま、いっか。俺も次の授業に行くとするか。にしてもうめぇなこれ」

 口いっぱいに広がるパンとチョコのタッグに舌鼓を打ちつつ食堂を後にした。
 だが、この後にシュレイドに待ち受ける運命は過酷なものだった。



「……シュレイドぉぉぉ?」
「……あんたァ、何しに行ってたわけェ?」

「えと……すいません、でした」

 お腹を空かせて殺気立っている女性二人による食べ物の恨みの怖さというものをこの時、シュレイドは学園に入学して初めて知るのだった。

続く

作 新野創


■――――――――――――――――――――――――――――――■

双校は毎週日曜日の更新

声プラのもう一つの作品
天蓋のジャスティスケール」もどうぞご覧ください。
天蓋は毎週水曜日に更新

■――――――――――――――――――――――――――――――■


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?