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14 テラフォール流剣術 対槍の章

「はああああああっ!!!!」
 エナリアの槍がシュレイドの目線の高さで真っすぐに繰り出されていく。
 視点、視線の中心を目掛けて突き出された槍の軌道が真っすぐであればあるほど、相手は距離感を狂わせる。

「くっ、これも避けますの!?」

 彼女の表情が僅かに曇った。初撃で相手のペースを崩す際に用いるエナリアの得意な立ち上がりでの速い一突きは空を切る。シュレイドは無駄のない動きで距離を取り一呼吸する。

 エナリアはすぐさま追撃の動作に入り、二突目の突きを構えた。

「テラフォール流剣術……対槍の章(ついそうのしょう)……槍直突(そうちょくとつ)」

 ぽつりと呟く。と刹那にも満たない直後、目にも負えない動きで剣の切っ先を相手に向けて突きの構えを取る。

(剣での突き!? 槍の長さとは圧倒的な差がありましてよ!! こちらには決して届きませんわ)

 エナリアは薄く笑みを浮かべて槍を突き出した。シュレイドはそのタイミングに合わせるように剣による突きを繰り出した。


 瞬間、鋭い金属衝突音が周囲に響き渡り周囲の静寂が突如どよめきへと変わる。

 彼が狙ったのは彼女ではなく、彼女が突き出した槍に向けてだった。二人の動きは時間が止まったかのように静止していた。

「くっ、動かな、い?」
「あれ? 弾けない?」
「なっ、何ですのコレはっっっ!?」

 エナリアはおろか周りでその光景を見ていたものは全員唖然となっていた。突き出した槍の先端と剣先が真っすぐ一直線に拮抗していたのだ。

 鍔迫り合いのような武器側面での押し合いの形でなく、槍と剣の切っ先からお互いの武器が真っすぐに一直線になり均衡を保っていた。

「槍っていうのは剣や斧などの近接の武器の攻撃範囲の外側から行う突きと払いで相手を翻弄する戦い方に特化している武器だ。逆に言えばそれは弱点にもなる」

「弱点、ですって?」

「槍に力が込めやすい体勢や位置は限定的だから近い距離で止められたり、武器そのものを横から切り払われることには弱いんだ。あとはこうした拮抗した状態になった時。それから、反対に距離が取れる分、今度は離れすぎても武器に力が伝わりにくいし見切られやすい。予備軌道や動作を確保できないと威力が落ちる。とかもそうだな。その長さから武器を安定させるために腕にかかる負担が大きい。短く小さい武器よりも力が込めにくい分、力比べになれば負けやすい。難しい武器だ」


「理屈は分かりますわ。ですが、槍使いである私がそのような槍の弱点を知らないとでも!?」


「知っていても実感を伴うかは別だ。大抵の剣や斧、もしくは徒手空拳など近接戦闘の相手、また複数を相手取る場合には槍は距離が取れて非常に有効、ほぼ無敵と確かに言える。けど、それも一般的な強さの相手にしか通用しない。相手が強ければ強いほどに利点は少なくなる。間合いや速さを潰してくる相手の場合、著しくその優位性は損なわれてしまう……これまで自分より強い近接武器の相手がそもそも学園内には、かなり少なかったんじゃないのか? 多分だけどな」

「……っ」

「弱者は常に強者の力を想像して、想定して戦わなくちゃならないものなんだ」

「弱者ですって、、、それは私のこと?……私は今の力や立場に驕っていたことなど、一度もございませんことよ!!」

「ただ、想定外なのは槍を弾けなかったことかなぁ。よほど真っすぐにブレなく槍を突いていないと、こうはならないし」

 シュレイドは冷静に状況を分析する。彼にとっても驚きはあったようだ。

 それはそうだ。物体が真っすぐに衝突する際に前後左右上下と加わる力は均一になることはまずそうは起こらない、まして人の力が加わればそのブレはわずかなものでも力の向かう方向に作用する。僅かな点面積の槍先と剣先なら尚更だ。

 このように槍と剣が一直線に静止している状態などこの場にいる生徒たちの誰もが初めて見る光景だった。

 開始の合図をしたゼアも例外ではなかった。

「なんだ!? エナリア会長の槍の突きを剣の突きで止めるだって!? あり得ない」

 ゼアや周りの生徒達は驚愕の表情で二人の様子を眺めていた。

「……私は、私は決して弱者なんかじゃ、ない!!!!」

 エナリアはすぐさま槍を握る手の力を緩めて、力を込めている相手の体勢を崩そうとした、が

「えっ??」

 体制を崩したのはエナリアの方だった。一瞬、何が起きたのか分からなかった。

「まぁ選択肢としては悪くなかった、かな」

シュレイドは目の前で尻もちをついているエナリアに対して剣先を突きつけた。


続く

作 新野創


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