10　温かな日常

女性
（今日、あいつと喧嘩をした。原因は、本当に些細なこと。下らないこと。）

女性
（きのこのスープを混ぜながら、ため息が出る。私も悪いが、全くと言っていいほどあいつは譲らない。）

女性
（だから、ついムキになってしまう。そのはずなのに・・・。）

女性
「なんで、あたしは・・・」

女性
（自分は、食べられないはずのきのこのスープを混ぜる。ひたすら、混ぜる。もう、ドロドロになるんじゃないかってくらいに混ぜ続ける。）

女性
（いつも、美味しいと言って食べてくれるあいつの顔が忘れられなくて。）

女性
（涙が溢れてくる。こんなことで泣くなんて馬鹿みたいだなぁ。）

女性
（心配してか、あたしの裾をくいくいと引っ張る小さな手。ダメだなぁ。あたしがしっかりしないとこの子にも心配かけさせてしまう。）

女性
（笑顔を作ろうとする。上手く作ることができない。）

女性
（鍋は、そんなことお構いなしに煮立っている。ボコボコと音を立てる。）

女性
（あー。もう、何もかも投げ出したくなる。そんなことできるはずないのに、気持ちはぐちゃぐちゃになる。）

女性
（もう、いやだ。）

女性
（玄関が開く音がする。小さな手が離れて、玄関の方に向かう。すぐに、喜びの声が上がる。）

女性
（あー。忘れていた。今日は、あたしの誕生日だったんだ。）

女性
（大きなケーキを持った大きな太陽と、ニコニコしている小さな太陽。）

女性
（あー。何もいらない。だから、神様。どうか、あたしの時間を少しでも奪わないでください。）

女性
（あたしの幸せの時間を・・・。）

終わり

作：　小泉太良

※注意
こちらはライトーンという朗読アプリ内に投稿されていた短編となります。
音声化に関してはライトーンのアプリ内でのみ規約を順守し読むことが出来ますが、アプリ外での音声化は声プラ公式が更新するもの以外は制作はNGとなります。ご注意ください。


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